「売上を伸ばすこと」と「良い会社であること」は、いつも同じ方向を向いているとは限りません。値引きを重ねれば数字は伸びます。無理な人員配置をすれば、短期の利益は膨らみます。でも、それを続けた先に、私たちが目指す会社があるかというと、答えは一つです。ありません。
私たちラクフルは、国内ECのリユース・アパレル販売を軸に事業を営んでいます。KIDSpo、レンタルスペース、とよなかマルシェ、製品開発OEM、WEB制作も運営し、6つの事業を並行しています。事業を一つに絞り込めば、経営はもっと単純になるかもしれません。それでも私たちが複数の事業を持ち続けているのは、売上至上主義という一つの物差しだけで会社を動かしたくないからです。
この記事では、「売上だけを追わない」という判断を、私たちが日々どう実践しているのかをお話しします。理念論としてではなく、事業運営の具体としてです。
この記事で分かること
- 「売上至上主義」とは何か、利益・理念とはどう違うのか
- 多くの会社が売上だけを追ってしまう構造的な理由
- 私たちが7つのバリューの一つに「利潤」を置いている理由
- 売上を主目的としない事業を、あえて持つという私たちの判断
- 利益と目的は対立しないという、経営研究からの学び
売上は、目的ではなく条件です
先に結論をお伝えします。私たちにとって売上は、事業の目的ではありません。楽しさを届け続け、仲間の暮らしを守り、地域や取引先との関係を続けていくための「条件」だと考えています。
条件と目的は、似ているようで違います。目的が売上そのものになると、判断の軸は常に「今月の数字」に寄っていきます。一方で、売上を条件として扱えば、判断の軸は「これを続けて、誰の何が良くなるか」に置けます。同じ数字を追っているようで、見ている先がまったく違うのです。
短期の打ち手に頼れば、数字はすぐに動きます。それでも私たちの中には、その打ち手だけに頼ることへのためらいが、いつもあります。私たちは、この違いを忘れないために、あえて売上だけでは測れない事業をいくつも持ち続けています。その理由を、順を追ってお話しします。
なぜ、多くの会社が「売上だけ」を追ってしまうのか
売上至上主義は、悪意から生まれるものではありません。まじめに数字と向き合ってきた会社ほど、陥りやすい構造だと感じています。
月次・年次で管理できる数字は、売上や受注件数です。一方、「顧客との信頼」や「仲間の働きやすさ」は、簡単には数値化できません。測れるものを優先し、測りにくいものを後回しにする。特別な会社に限った話ではありません。多くの組織で起こりうることです。
特にEC事業は、売上の変化が翌日の数字にそのまま表れます。広告費を増やせば流入は伸び、値引きをすれば転換率は上がる。だからこそ、短期の打ち手に偏りやすいという事情もあります。私たちが複数モールでEC運営を続けてきた中でも、そうした誘惑と無縁ではいられないというのが実感です。
売れ行きが落ち込んだとき、値引き幅を広げれば数字はすぐに戻ります。けれど、待っているのはさらに大きな値引き競争です。私たちは値引きより先に、商品の見せ方や説明を見直すことを大切にしています。
「売上至上主義」とは何か、利益や理念との違い
ここで、言葉の整理をしておきます。売上至上主義とは、売上高そのものを経営の第一目標に置く経営姿勢です。利益率・従業員の負担・顧客との関係といった他の要素は、後回しにされます。
似た言葉に「利益重視」がありますが、これは売上至上主義とは異なります。利益は、売上からコストを引いた残りです。無理な値引きや過剰な広告費を避け、健全な仕組みで事業を回した結果として残るものです。利益を大切にすることと売上至上主義は、むしろ逆方向を向いていることも少なくありません。
もう一つ、押さえておきたいのが「理念」との関係です。理念は、会社が何のために存在するかという問いへの答えです。売上や利益は、その理念を実現し続けるための手段にすぎません。手段と目的が入れ替わると、会社は数字に強くても、何のための会社かが見えにくくなっていきます。
私たちが7つのバリューの一つに「利潤」を置いている理由
私たちには、楽しさ・利潤・最先端・好奇心・再現性・誠実性・持続性という7つのバリューがあります。この並びには、私たちなりの意図があります。楽しさを届け続けるという理念は、私たちが売っているのは、商品ではなく『少し明るい明日』ですで詳しくお話ししています。
「利潤」は、7つのうちの一つです。トップにも、唯一の項目にもしていません。楽しさを届けること、誠実であること、事業を持続させること。これらと並列に置くことで、利潤は「他を犠牲にしてでも追う目標」ではありません。「他の6つを支えるために必要な一要素」として位置づけています。
私たちのクレドには、「まずは与えることを率先して行う」という言葉があります。先に売上を確保してから与えるのではなく、与えることを先に置くという順番の話です。利潤を否定しているわけではありません。むしろ、利潤を正しく残すためにこそ、この順番が大切だと考えています。バリューやクレドの全体像はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)でご紹介しています。
売上を主目的としない事業を、あえて持つという判断
言葉だけでなく、事業構成そのものにも、この考え方は表れています。私たちが運営する「とよなかマルシェ」は、地域のつくり手と生活者をつなぐ取り組みです。単体の事業として大きな売上を狙ってはいません。地域とともに続けていくことを目的にした事業です。
事業を一つに絞れば、経営資源はもっと効率的に配分できるかもしれません。それでも複数の事業を並行運営しているのは、一つの事業の数字が良い時も悪い時も、仲間の雇用と暮らしを守り続けたいからです。事業ポートフォリオを分散させるという判断そのものが、売上至上主義に陥らないという私たちの姿勢の表れです。
従業員満足(ES)を一番に置く方針も、同じ考え方の延長にあります。仲間が安心して働ける環境を整えることは、短期的にはコストに見えるかもしれません。しかし、仲間が疲弊した状態では良い仕事は生まれず、結局は売上も長続きしません。売上を後回しにしているわけではありません。順番を間違えないようにしています。それが私たちの実感です。この方針の詳しい中身はホワイト企業認定の理由でもご紹介しています。
外の知見に学ぶ——利益と目的は、対立しない
この考え方は、私たちだけの独自理論ではありません。経営研究の世界にも、同じ方向を指し示す知見があります。
ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッター氏とジェームズ・ヘスケット氏は、200社以上を対象に調査を行いました。従業員・顧客・株主のすべてを大切にする「適応力のある企業文化」を持つ会社があります。そうした会社ほど、長期的な財務成績が優れているという結果でした。数字だけを追う会社より、文化を土台に置く会社の方が業績も良かった、という指摘です。
また、資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク氏は、2018年のCEOレターでこう述べています。「目的意識を欠いた企業は、その潜在力を十分に発揮できない」という趣旨です。利益と社会的な目的は対立しません。両立して初めて、長期的な成長が可能になるという主張です。売上や利益を否定する主張ではありません。目的を欠いた数字追求には限界がある、という指摘だと受け止めています。
私たちの事業規模は、これらの研究の対象企業とは大きく異なります。それでも、数字だけを目的にしない経営が結果として数字にも表れるという構造は、規模を問わず参考にできると感じています。
まとめ:これから私たちが実践していくこと
売上だけを追わないという判断は、一度決めれば終わるものではありません。日々の意思決定の中で、繰り返し問い直し続けることだと考えています。
事業を伸ばす場面でこの判断がどう働くのかは、今後の記事であらためてお話しします。
- 7つのバリューのバランスを、事業計画や日々の判断の中で意識し続けます。
- ES(従業員満足)を一番に置く方針を、制度と現場の両面で整え続けます。
- とよなかマルシェのように、売上を主目的としない取り組みも大切にしていきます。
- 越境ECの本格化や自社PBなど新しい挑戦も、この判断の軸をぶらさずに進めていきます。
売上は、私たちにとって大切な数字です。ただし、それは目的地ではありません。楽しさを届け続けるための条件です。この順番を間違えないこと。それが、私たちの考える経営判断の軸です。
売上は目的ではありません。楽しさを届け続けるための条件です。順番を間違えない経営が、結果として仲間と顧客と数字を守ります。
よくある質問
Q. 売上至上主義と利益重視は、同じ意味ですか?
A. 異なります。売上至上主義は売上高を第一目標に置く姿勢です。利益重視は、無理な値引きや過剰なコストを避けた結果として利益を残す考え方で、両者は逆方向を向くこともあります。
Q. 売上を追わないと、会社は存続できないのでは?
A. 私たちも売上・利益を大切な数字として扱っています。売上を否定しているわけではありません。唯一の目的にはせず、7つのバリューの一つとして他の要素と並べて判断することを大切にしています。
Q. 「とよなかマルシェ」は利益が出なくてもよい事業ですか?
A. 継続できる仕組みは大切にしています。ただし、単体の売上拡大は主目的とせず、地域とともに続けていく事業と位置づけています。
Q. この考え方は、中小企業でも実践できますか?
A. 規模の大小にかかわらず、判断の順番を意識することはできると考えています。私たちも社員33名の会社として、日々の判断の中でこの順番を確かめ続けています。
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参考情報・出典
公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社
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