「荷物が届かない」「壊れて届いた」「知らない間にチャージバックが起きていた」。越境ECに挑む事業者が最初にぶつかる壁は、売り方よりもトラブル対応であることが少なくありません。
国内の通販なら、電話一本、翌日配達で解決できたかもしれません。国境をまたぐと、配送日数も返送料の負担も、言葉も法律も変わります。「怖いから越境ECに踏み出せない」という声を、私たちも取引先や同業者からたびたび聞いてきました。
この記事では、越境ECの返品にまつわる不安を中心に、未着・破損・チャージバックという4つの場面を取り上げます。起きてしまった後の対応と、起きる前の備えを、公的データをもとに整理します。派手な解決策はありません。それでも、備えておけば被害と気持ちの負担の多くは小さくできます。
この記事で分かること
- 越境ECのトラブルが、公的データ上でどれくらいの規模で起きているか
- 商品未着・破損が起きたときに、まず確認すべき追跡と配送サービスの補償制度
- 返品対応の設計と、海外のお客様に伝わる返品ポリシーの書き方
- チャージバックが起きる仕組みと、クレジットカード不正利用への備え
- DDP・DDUの選び方が、受取拒否や関税トラブルの防止にどうつながるか
国際取引のトラブルはゼロにはできません。それでも、追跡・補償・ポリシーの明文化・記録という4点を先に整えておけば備えになります。被害の大きさも、対応にかかる時間と気持ちの負担も、大きく減らせます。
越境ECのトラブル、実際にどれくらい起きているのか
まずは全体像を確認します。国民生活センターの越境消費者センター(CCJ。海外の事業者との取引に関する消費者からの相談を受け付ける窓口です)には、2024年度に6,005件の越境消費者相談が寄せられました。前年度の6,371件からは減少していますが、決して小さな数字ではありません。
相談内容で最も多いのは「解約」で57.2%(3,437件)でした。意図せず契約してしまったサブスクリプションサービスの解約トラブルが典型です。この記事のテーマである「商品未到着」「返品」は、件数としては解約や詐欺疑いより少数派です。それでも、正規のEC事業者が日常的に直面する現実的なリスクという意味では、むしろ身近な論点だといえます。決済手段は「クレジットカード」が71.8%(4,311件)で最多。前年度の67.1%からさらに増えています。取引類型では「電子商取引」が98.3%を占め、越境ECがトラブルの主戦場になっていることがわかります。
| 相談内容 | 件数・割合(2024年度) |
|---|---|
| 解約 | 3,437件(57.2%) |
| 詐欺疑い | 662件(11.0%) |
| 商品未到着 | 422件(7.0%) |
| 返品 | 210件(3.5%) |
| 不当請求 | 187件(3.1%) |
| 不良品 | 109件(1.8%) |
| 模倣品到着 | 81件(1.3%) |
ここからは、この記事のテーマである越境ECの返品と、未着・破損・チャージバックという4つの場面を、順番に見ていきます。
未着トラブルへの対応——追跡と補償の使い方
海外発送した商品について「届かない」と連絡を受けたとき、最初にやるべきことがあります。慌てて再送や返金を約束することではありません。まず追跡番号で配送状況を確認し、荷物が今どこにあるのかを事実として押さえることです。
一般に、国際配送は国内配送よりも中継地点が多いといわれます。通関での足止めや、現地の配送網での遅延が起こりやすい構造です。追跡情報が「通関中」で止まっているのか、「配達完了」になっているのに顧客が受け取っていないと言っているのかで、対応はまったく変わります。後者の場合は、誤配・盗難・受取人本人の勘違いなど、原因の切り分けが必要です。
ここで効いてくるのが、配送サービスの補償制度です。日本郵便のEMS(国際スピード郵便)は、差出時に申出がなければ損害要償額2万円までの補償です。「2万円またはその端数ごとに50円」の追加料金を払えば、最高200万円まで補償額を増やせます。単価の高い商品を送るときほど、この申出をしているかどうかが結果を大きく左右します。追跡と補償は、事後対応の武器であると同時に、出荷時点で選べる予防策でもあるのです。
破損トラブルへの備え——梱包・保険・証拠
破損は、未着よりも「防ぎやすい」トラブルです。一般に、国際配送は国内配送より積み替えの回数が多く、輸送時間も長くなりがちです。国内向けの梱包基準をそのまま流用すると、緩衝材が足りずに壊れて届くことがあります。
備えの基本は3つです。1つ目は梱包そのものの強化。角に緩衝材を厚めに入れる、割れ物は個別に固定するといった、地味だが効果の大きい工夫です。2つ目は、未着トラブルと同じく配送サービスの保険(補償額の申出)を使うこと。3つ目は、出荷前の商品状態を写真で記録しておくことです。梱包前後の写真を残しておけば、「元から壊れていたのでは」という水掛け論を避けられます。
破損の連絡を受けたら、まず顧客に破損部分の写真を送ってもらいます。そのうえで配送サービスの補償制度に基づいて申請し、返金や交換の対応を進めます。ここで重要なのは、対応の速さと説明の丁寧さです。私たちは国内のリユースECで、対応の一つひとつがブランドを積み上げていくという考え方を大切にしています。トラブル対応の質そのものが、海外のお客様にとっての信頼材料になります。
越境ECの返品対応をどう設計するか
越境ECの返品は、国内以上に「送料をどちらが負担するか」「返送先はどこか」があいまいだと混乱を招きます。事前にポリシーを明文化し、購入前に顧客が読める場所へ掲載しておくことが出発点です。越境ECで選ばれる会社になるために必要な信頼構築の一部として、返品ポリシーの明文化は欠かせません。
返品ポリシーには、最低限として次を明記します。返品可能な期間、返品可能な条件(未使用・未開封か等)、返送料の負担者、返金方法(元の決済手段への返金かクーポンかなど)、返送先の住所です。
英語で書く場合は、あいまいな表現を避けることが大切です。たとえば”Returns must be requested within 14 days of delivery”のように、期間・起点・行動を1文で明確にします。こうした書き方は、翻訳を経由しても誤解を生みにくくなります。
もう一つの論点は、返送された商品をどう扱うかです。国際返送は送料が高く、時間もかかります。商材によっては「返送不要で返金」という判断のほうが合理的な場合があります。私たちは国内のリユース事業で、返品を「失敗」ではなく物流工程の一部として設計したいと考えています。この発想は、越境の返品対応にもそのまま応用できるはずです。
チャージバックとクレジットカード不正利用への備え
チャージバックとは、クレジットカード利用者が「身に覚えがない」「商品が届かない」などの理由で、カード会社に異議を申し立てる仕組みです。異議が認められると、決済が取り消されます。越境ECでは、顧客の顔が見えないぶん、このリスクが国内よりも身近になります。
一般社団法人日本クレジット協会の集計によると、2025年(1〜12月)のクレジットカード不正利用被害額は510.5億円でした。過去最高だった2024年の555.0億円からは8.0%減少しています。このうち番号盗用による被害が475.4億円で、全体の9割超を占めています。同協会は、不正利用被害の多くがEC加盟店で発生していると位置づけています。
この対策として、同協会はEC加盟店にEMV 3-Dセキュア(不正リスクをデバイス情報等で判定し、必要なときだけワンタイムパスワードなどの追加認証を行う本人認証の仕組み)の導入を求めてきました。導入期限を2025年3月末と定めた旧版のガイドライン6.0版(2025年3月改訂)にこの指針が盛り込まれ、2026年3月には最新の6.1版へと改訂されています。
チャージバックそのものの公的な件数統計はありません。それでも、この不正利用被害額の推移が、対策の優先度を示す実務上の目安になります。本人認証サービスの導入に加え、配送追跡番号を決済記録に必ず紐づけておくこと。高額商品では本人確認を一段階増やすこと。この2つが、越境ECでできる現実的な防御策です。
受取拒否・関税トラブルを防ぐDDP・DDUの選び方
「未着」として報告される案件の中には、実は「届いたのに受け取ってもらえなかった」ケースが混ざっています。背景には、想定外の関税請求が受取拒否につながっているケースも少なくないと考えられます。
貿易条件には大きく分けてDDPとDDUという考え方があります。JETROの解説によると、DDP(関税込持込渡し)では、売主である日本の事業者が出荷から輸入国の指定場所への配送までを担います。輸出入通関、関税・輸入VATの支払いまで、すべてを行うのがDDPです。一方、DDU(関税抜き持込渡し。現行の貿易条件ではDAPが近い考え方です)では、輸入通関と関税の負担は買主側になります。
DDUで販売すると、商品到着時に顧客が予想外の関税請求を受け取ることがあります。驚いて受取を拒否してしまうケースも珍しくありません。これが「未着」や「返品」として計上されているケースも少なくないとみられます。
イーベイ・ジャパンが2026年3月に公開した「2025年間 越境ECレポート」によると、同社は米国向け取引でDDP(関税込み配送)を必須化し、購入時点の総額を明確にしています。すべての商材でDDPが最適とは限りません。それでも、「購入時点で顧客が最終的にいくら払うのかを、はっきり伝える」という発想は、越境ECのトラブル予防に共通する原則です。関税・通関の詳しい制度解説は、今後の記事で改めて取り上げる予定です。
今後ラクフルが実践していくこと
越境EC本格化を計画する私たちにとって、この記事で整理した内容は他人事ではありません。自分たちがこれから備えるべき課題そのものです。国内EC・リユース事業で培ってきた「対応はコストではなくブランド資産」という考え方を土台に、次のことに取り組んでいきます(私たちの越境ECへの挑戦は豊中から世界へ|私たちが越境ECに本気で取り組む理由でも紹介しています)。
- 配送サービスの補償制度を商材ごとに使い分ける:単価に応じて申出補償額を設定し、未着・破損時の備えを標準化していきます。
- 返品ポリシーを多言語で明文化する:期間・条件・負担者をあいまいにせず、購入前に確認できる形で整えていきます。
- 決済まわりの本人認証を強化する:EMV 3-Dセキュアなど業界の指針に沿った対策を導入していきます。
- 貿易条件を商材・仕向地ごとに検討する:受取拒否を防ぐため、DDP・DDUの選択を出荷前に整理する体制を準備します。
越境ECのトラブルは、なくすことはできません。けれど、備えておけば結果は変えられます。追跡・補償・ポリシーの明文化・記録。この4つを一つずつ積み重ねていくことが、私たちの挑戦です。返品対応の質は、国内と同じように海外でもブランド資産になる。そう信じて、私たちはこれから越境ECの現場に、本気で向き合っていきます。私たちの事業全体については、事業紹介もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 海外に発送した荷物が「未着」のまま連絡が取れません。何から確認すればいいですか?
A. まず追跡番号で配送状況を確認してください。「通関中」で止まっているのか、「配達完了」表示なのに届いていないと言われているのかで対応が変わります。後者は誤配・盗難・受取人本人の勘違いの可能性があります。配送事業者への調査依頼と、購入時に補償を申し出ていたかの確認を、並行して進めてください。
Q. 返品ポリシーは何語で、どこまで書けばいいですか?
A. 最低限、返品可能な期間・条件・返送料の負担者・返金方法・返送先住所を明記します。英語で書く場合は、期間の起点(配達日からか等)まで明確にします。あいまいな表現を避けることが、誤解を防ぐ近道です。主要な販売言語で用意できるのが理想ですが、まずは英語版の整備を優先することをおすすめします。
Q. チャージバックが起きたら、返金するしかないのでしょうか?
A. チャージバックは、カード会社の審査を経て決定されます。配送追跡番号や本人認証の記録など、正当な取引であったことを示す証拠を提出すれば、異議申し立てができる場合があります。決済代行会社によって手続きが異なるため、契約している決済代行会社の規約を事前に確認しておくことが重要です。
Q. DDPとDDU、越境ECを始めるならどちらを選ぶべきですか?
A. 一概には言えませんが、受取拒否や関税トラブルを避けたいなら、購入時点で総額が確定するDDP寄りの設計が安心です。商材単価が低く関税の影響が小さい場合は、DDUのほうがコスト面で有利なこともあります。仕向地の関税制度と商材の単価を踏まえて選ぶのが基本です。
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- いい会社は、いい顧客対応から生まれる|対応はコストではなくブランド資産 — トラブル対応をブランド資産と捉える考え方
- 越境ECで選ばれる会社になるために、本当に必要なこと — 海外顧客との信頼構築の考え方
- 豊中から世界へ|私たちが越境ECに本気で取り組む理由 — 越境ECに取り組む背景と全体像
参考情報・出典
- 独立行政法人国民生活センター「2024年度 越境消費者相談の状況-越境消費者センター(CCJ)より-」(2025年8月公表)
- 日本郵便株式会社 国際郵便FAQ「EMSの損害賠償額はいくらでしょうか?」(2026年7月閲覧)
- JETRO 貿易・投資相談Q&A「VAT登録の要否:EUへ輸出する場合」(2025年1月最終更新)
- 一般社団法人日本クレジット協会「クレジットカード不正利用被害の集計結果について」(2026年3月6日)
- クレジット取引セキュリティ対策協議会(事務局:一般社団法人日本クレジット協会)「クレジットカード・セキュリティガイドラインの改訂について」(2026年3月)
- イーベイ・ジャパン株式会社 プレスリリース「2025年間 越境ECレポート」を公開(2026年3月9日)
公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社
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