EC運営の業務分担はこう設計する|少人数で複数モール・複数事業を回す体制

「担当者が休むと、その日は誰も出荷状況が分からない」。「モールが増えるたびに、結局いつもの人に仕事が集中する」。EC運営の現場で、こうした声を聞くことは少なくありません。

人手をかけられるほど余裕はないのに、扱うモールも業務も年々増えていきます。少人数でEC事業を運営する経営者やEC責任者にとって、業務分担は悩みの種です。多くの場合「誰にどれだけ仕事を割り振るか」という配分の問題に見えます。ですが、実際にうまく回っている現場をたどると、順番が逆であることに気づきます。分担がうまくいくかどうかは、人を先に決めることではありません。工程をどう分解しておくかで、ほとんど決まっているのです。

この記事では、EC担当が1〜数名しかいない中小企業に向けて、業務分担の設計方法をお伝えします。兼任前提でも、複数モール・複数事業を回せる体制のつくり方です。視点は工程分解・境界線の引き方・引き継ぎの仕組みという3つです。以前の記事「EC運営はなぜ難しいのか|モール販売で差がつく7つの力」では、EC運営に必要な7つの力を整理しました。今回はその力を、実際に誰がどう担うかという「人の配置」に翻訳する続編としてお届けします。

私たちラクフル株式会社は、社員33名(パート含む)で6つの事業を並行運営してきました。その中で大切にしてきた考え方も、事実の範囲でご紹介します。

この記事で分かること

  • 業務分担が崩れる根本原因は、人が足りないことより先に「工程が分解されていない」こと
  • 兼任前提の少人数チームで、業務分担をどんな手順で設計すればよいか
  • 一人に仕事を集中させすぎないための「境界線」の引き方
  • 担当者が休んでも回る、引き継ぎとブラックボックス化を防ぐ仕組み
  • 繁忙期・欠員時に業務を回すための応援体制の考え方

EC運営の業務分担は「人に割る」より先に「工程を分ける」

結論から書きます。EC運営の業務分担は、まず人の顔を思い浮かべて仕事を割り振るところから始めるべきではありません。先に、EC運営という仕事全体を「工程」として分解します。それぞれの工程がどんな性質を持つかを見極めてから、初めて人に載せる。この順番が大切です。

この順番を逆にすると、たいてい同じ落とし穴にはまります。「とりあえず今いる人でできることをやってもらう」という発想で仕事を割り振ると、どうなるでしょうか。器用な人や声を上げやすい人のところに、業務が集まってしまいます。そして、その人が抜けた瞬間に運営全体が止まってしまうのです。工程を先に分けておけば、「この工程は誰が担当してもいい」「この工程は専門性が要る」という区別がつきます。少人数でも、無理のない分担ができるようになります。

兼任前提の少人数チームであっても、この考え方は変わりません。むしろ人数が少ないからこそ、行き当たりばったりで仕事を割り振る余裕がありません。最初に工程を分けておく設計の価値は、むしろ大きくなります。

なぜ少人数のEC運営では、分担が崩れやすいのか

少人数のEC運営で分担が崩れる背景には、二つの構造的な要因があります。一つは慢性的な人手不足です。もう一つは、モールや事業を増やすたびに業務量が積み上がっていくという、EC運営特有の事情です。

帝国データバンクは2026年4月、人手不足に関する調査を実施しました。正社員が「不足している」と感じている企業は50.6%にのぼりました。調査対象は全国2万3,083社、有効回答は1万538社です。約5割の企業が、正社員不足を感じています。人を増やして分担の余裕をつくるという解決策は、多くの中小企業にとって簡単ではありません。

この状況でモールや事業の数だけが増えていくと、既存の担当者一人あたりの業務範囲がじわじわと広がります。最初は「片手間でできる」程度だった追加業務が積み重なります。気づけば一人が、受注対応・商品登録・在庫管理・カスタマー対応のすべてを抱えている。そんな状態になりやすいのです。これは特定の会社の特殊事情ではありません。少人数でEC運営を続ける会社の多くが通る道だと、私たちは考えています。

「なんとなく分担」が生む3つのリスク

工程を分解せず、なんとなくの分担で運営を続けると、次の3つのリスクが積み上がっていきます。

  • 属人化:特定の担当者しか分からない業務が増え、その人が休む・辞めるだけで工程が止まる
  • 過重な集中:仕事ができる人・断れない人に業務が集まり、離職や体調不良の引き金になる
  • 境界の曖昧さ:誰がどこまで責任を持つのかが不明確で、トラブル発生時に対応が後手に回る

この3つは独立した問題ではありません。互いに絡み合っています。属人化が進むほど一人への集中は強まり、集中が強まるほど境界は曖昧になっていきます。だからこそ、対症療法ではなく、工程の分解という土台から手をつける必要があるのです。

業務分担の基本設計—まず工程を分解する

以前の記事「『たまたま売れた』を、なくす。|ラクフルのEC運営を支える再現性の話」では、EC運営を7つの工程に分解する考え方を紹介しました。ここでは、その工程分解を「誰が担うか」という分担の視点に接続していきます。

最初のステップは、EC運営の仕事全体を工程単位に分解することです。「受注対応」「在庫管理」とひとくくりにせず、もう一段細かく書き出してみます。すると、実は複数の性質の異なる作業が混ざっていることが見えてきます。

工程を分解する際は、次の3つの軸で見ると整理しやすくなります。

問い 分担設計への影響
定型性 マニュアル化できる定型作業か、都度判断が必要な非定型作業か 定型作業は複数人・交代制にしやすい
専門性 特定の知識・経験がないと質が落ちる作業か 専門性が高い工程は担当を絞り、バックアップ役を明確にする
緊急性 遅れるとお客様や取引先に即座に影響が出る作業か 緊急性が高い工程ほど、不在時の代行ルールを先に決めておく

この3軸で工程を並べ替えると、違った打ち手が見えてきます。「定型・緊急性高い」工程(受注確認や出荷準備など)は、複数人でカバーできる体制を優先します。「非定型・専門性高い」工程(商品ページの企画や取引先交渉など)は、担当を絞りつつ相談できる相手を明確にします。すべての工程を同じやり方で分担しようとするから、無理が生じるのです。

兼任前提での境界線の引き方

少人数のEC運営では、一人が複数の役割を兼ねるのが前提になります。ここで大切なのは、兼任そのものを避けることではありません。「どこまでを一人に持たせ、どこから先は他の誰かと共有するか」という境界線を、あらかじめ言葉にしておくことです。

境界線が曖昧なまま兼任が進むと、「気づいた人がやる」状態になりがちです。気づいた人がやる運営は、一見柔軟に見えます。ですが実際には、気づく側にいつも同じ人が固定されるという偏りを生みます。境界線を引くことは、冷たく線を引くことではありません。「ここまでは責任を持つ、ここから先は巻き込んでいい」という安心を、担当者本人に渡すための作業でもあります。

複数モール運営における境界線の考え方

複数のモールに出店している場合、境界線の引き方には大きく2つの考え方があります。一つは「モールごとに担当を分ける」やり方です。もう一つは「工程ごとに担当を分け、モールをまたいで動く」やり方です。

モールごとに担当を分けると、そのモール特有のルールや傾向に詳しくなれます。一方で、担当者が不在のときにそのモールだけが止まりやすくなるという弱点もあります。工程ごとに分けると、一人がすべてのモールの同じ工程を見るため代役を立てやすくなります。ただし、モールごとの細かい違いへの目配りが薄れやすいという弱点があります。どちらが正しいというより、自社が扱うモールの数と工程の複雑さのバランスで選ぶ判断です。

私たちは複数のECモールを併売しています。中でも在庫連動のように「売れた瞬間にすべての売り場へ反映する」性質の工程には、特に気を配っています。こうした工程は、モールをまたいで一人、または少人数の固定チームが横断的に見る形をとることが多くあります。ここでとりこぼしが起きると、複数のモールで同じ商品を同時に販売してしまいます。この「二重販売」という形で、お客様に迷惑をかけてしまうからです。

引き継ぎとブラックボックス化を防ぐ仕組み

境界線を引いても、その工程のやり方が担当者の頭の中にしかなければ、結局は属人化を防げません。境界線の内側で「その人がどうやっているか」を言葉に残しておく仕組みが、引き継ぎの土台になります。

引き継ぎの仕組みというと、分厚いマニュアルづくりを想像するかもしれません。ですが、最初から完璧なマニュアルを目指す必要はありません。むしろ、次の4点だけを最低限おさえておくほうが、現実的に機能します。

  • 手順:何を、どの順番で行うか(スクリーンショットや簡単な箇条書きで十分)
  • 判断基準:迷ったときにどう判断するか、誰に相談すればよいか
  • 例外対応:よくあるイレギュラーとその対処法
  • 連絡先:関係する取引先・システムの担当窓口

この4点は、「引き継ぎのため」ではなく「自分が忘れないため」に書き残す感覚で更新すると、続けやすくなります。誰かに見せるための立派な文書ではなく、次に困ったときの自分自身のための備忘録だと捉え直す。すると、記録のハードルはぐっと下がります。

繁忙期・欠員時に機能する応援体制

業務分担の設計は、平常時だけでなく、繁忙期や急な欠員が出たときにこそ真価が問われます。セール時期や年末年始の受注増、あるいは担当者の急な体調不良は、どんな会社にも起こり得ることです。

応援体制を機能させるコツがあります。「誰でもすぐ助けに入れる工程」と「助けに入るには準備が要る工程」を、事前に切り分けておくことです。前者は日頃から複数人が触れる機会をつくっておきます。後者は繁忙期の前に一度、担当以外のメンバーが手順を確認する時間を設けておきます。この一手間があるかどうかで、いざというときの立ち上がりの速さがまったく違ってきます。

私たちも、6つの事業と複数モールを並行して運営しています。繁忙期には、事業の垣根を越えて手が空いている人が応援に入る場面があります。特別な仕組みというより、日頃から工程を言葉にしておいたからこそ、応援に入る人が迷わず動ける。そんな積み重ねの結果だと感じています。

ラクフルが実践してきた業務分担の考え方

ここからは、私たちラクフル株式会社が実際に取り組んできたことを、事実の範囲でお伝えします。私たちは大阪・豊中を拠点に、6つの事業を運営しています。国内ECリユース・アパレル、KIDSpo、レンタルスペース、とよなかマルシェ、製品開発OEM(TABI Sneakers)、WEB制作です。運営体制は、社員33名(パート含む)です。複数のECモールに出品し、在庫を連動させながら日々販売する実務も、私たちの日常業務です。

これだけの事業とモールを少人数で回せているのは、特別な才能を持った人が揃っているからではありません。工程を分解し、定型的な部分は複数人で担い、専門性が要る部分は担当を決めつつ相談できる関係をつくる。そうした地味な積み重ねを続けてきた結果だと捉えています。例えば繁忙期には、ふだんは別の事業を担当しているメンバーが、出荷準備の手が足りない事業に自然と加わる場面があります。それができるのも、工程を言葉にして共有してきたからです。もちろん、うまくいっていない部分もまだあります。特定の担当者に負荷が偏る場面や、引き継ぎの記録が追いついていない工程が残っていると感じることもあります。だからこそ、これは「完成した仕組み」ではありません。私たちも日々見直し続けている、途中経過として紹介します。

今後ラクフルが実践していくこと

  • 工程分解の言語化:感覚で分担してきた工程を、あらためて定型性・専門性・緊急性の軸で棚卸しし、共通言語として整理していきます。
  • 引き継ぎ記録の標準化:担当者ごとにばらつきのある引き継ぎメモを、手順・判断基準・例外対応・連絡先という共通フォーマットに揃えていきます。
  • 事業を越えた応援体制の可視化:繁忙期にどの事業からどの工程へ応援に入れるかを、あらかじめ一覧化しておく取り組みを進めます。
  • 複数モールの在庫連動をさらに磨く:モールが増えるほどシビアになる在庫連動の精度を、仕組みとして高めていきます。

どれも派手な打ち手ではありません。それでも、こうした地道な積み重ねが会社の土台になると、私たちは考えています。少人数でも、複数事業を楽しみながら回せる会社であり続けるためです。

まとめ:分担は配分の問題ではなく、設計の問題

EC運営の業務分担は、「誰にどれだけ仕事を割り振るか」という配分の悩みに見えます。実際には、「工程をどう分解し、どこに境界線を引き、どう引き継ぐか」という設計の問題です。人を先に決めるのではなく、工程を先に分ける。この順番を守るだけで、兼任前提の少人数チームでも、複数モール・複数事業を無理なく回せる体制に近づけます。

私たちラクフルも、33名で6つの事業を並行運営する中で、この設計を完成させたわけではありません。今もなお、わくわくしながら磨き続けています。少人数だからこそ、丁寧に工程と向き合う。その積み重ねが、これからも仲間と一緒に複数の事業を楽しみながら続けていく力になると信じています。業務分担の設計について相談したい方は、ぜひお問い合わせください。

よくある質問

Q. EC担当が1人しかいません。それでも業務分担の考え方は役に立ちますか?

A. はい。1人であっても、自分が担っている仕事を工程ごとに書き出してみましょう。定型的な部分と判断が必要な部分を分けておくことには、意味があります。将来人を増やすときにも、書き出した工程がそのまま引き継ぎの土台になります。外部への一部委託を検討する際の判断材料にもなります。

Q. モールごとに担当を分けるのと、工程ごとに担当を分けるのと、どちらがよいですか?

A. 扱うモールの数や工程の複雑さによって変わるため、一概にどちらが正解とは言えません。モール数が少なく特有のルールが多いなら、担当制が向きます。モール数が多く、在庫連動のような横断的な精度が必要な工程が多いなら、工程制が向く傾向があります。まずは在庫連動や受注確認など、遅れが直接お客様に影響する工程から、どちらの形が向くか検討するとよいでしょう。

Q. 引き継ぎのマニュアル作りが続きません。どうすればよいですか?

A. 最初から完成度の高いマニュアルを目指さないことをおすすめします。手順・判断基準・例外対応・連絡先の4点だけを、自分が次に困ったときのための備忘録として書き残す。そのくらいの気持ちで始めると、無理なく続けやすくなります。

Q. 繁忙期だけ人を増やすのと、日頃から応援体制をつくっておくのと、どちらがよいですか?

A. 両方を組み合わせる会社が多いという声も聞かれます。ただし、繁忙期だけの応援人員は工程を初めて触ることが多く、事前の準備なしでは戦力になりにくい面があります。日頃から一部の工程だけでも複数人が触れる機会をつくっておくと、繁忙期の応援も立ち上がりが早くなります。

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参考情報・出典

公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社(EC事業運営の現場より)

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