広告費をかけて新規のお客さまを集めても、一度きりで離れてしまう。売上は伸びているのに、手元に残る利益は増えない。EC運営を続けていると、こうした感覚に覚えのある方も多いはずです。
その正体は、たいてい「新規頼み」の構造にあります。新規顧客を獲得するコストは年々重くなっているのに、せっかく出会えたお客さまの多くが一度の購入で去ってしまう。これでは、広告を止めた瞬間に売上も止まってしまいます。
この記事では、リピーターを「なんとなく増やしたい数字」ではなく、LTV(顧客生涯価値)という指標で捉え直します。そのうえで、初回購入から再購入までの導線をどう設計すればよいかを、私たちラクフルが日々のEC運営で大切にしていることを交えながら整理します。
この記事で分かること
- 新規顧客の獲得コストが重くなっている背景と、リピーターに目を向けるべき理由
- LTV(顧客生涯価値)の考え方と、目安をつかむための簡易計算式
- リピーターが生まれない、EC運営でよくある落とし穴
- 初回購入の体験から購入後コミュニケーションまで、具体的な設計の手順
- ラクフルがLTVを軸にした運営で、これから取り組んでいくこと
新規顧客の獲得コストは、なぜ重くなり続けるのか
経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円でした。前年の24.8兆円からは5.1%の増加です。物販系分野のEC化率も9.78%となり、前年の9.38%から0.40ポイント上昇しました。
市場が拡大するということは、それだけ多くの事業者がEC参入を続けているということでもあります。同じ検索結果、同じ広告枠、同じお客さまの財布を、より多くの店が奪い合う構図です。広告の入札単価は上がりやすくなり、同じ予算で獲得できる新規顧客の数は少しずつ減っていきます。多くのEC事業者が肌で感じている「新規獲得がしんどくなった」という実感は、市場拡大の裏返しでもあります。
この状況で売上を伸ばそうとすると、広告費をさらに積み増すしかありません。ですが、広告費には限りがあります。原資が同じなら、いずれ新規顧客だけでは売上を支えきれなくなります。だからこそ、一度出会えたお客さまに「また買いたい」と思ってもらい、広告に頼らず売上を積み上げる仕組みが必要になります。それがリピーターであり、その価値を測る物差しがLTVです。
LTVとは何か——「また買いたい」を数字にする
LTV(Life Time Value・顧客生涯価値)とは、一人のお客さまが取引を始めてから終えるまでに、自社にもたらしてくれる利益の総量を指す指標です。一回の購入額だけを見るのではありません。そのお客さまが将来も含めて何回・どれだけ買い続けてくれるかまでを見る考え方だと捉えてください。
もっとも簡易な計算式は、次のようになります。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| 平均購入単価 | 1回の注文でお客さまが支払う平均金額 |
| 購入頻度 | 一定期間内(例:1年)に何回購入してもらえるか |
| 継続期間 | 取引がどれだけの期間続くか(年単位が目安) |
この3つを掛け合わせると、簡易的なLTVの目安が見えてきます。単価を上げるにも、頻度を上げるにも、継続期間を延ばすにも限界がありますが、どこか一つを伸ばすだけでもLTVは変わります。自社のどこに伸びしろがあるかを見極めるための、共通のものさしとして使う指標です。
たとえば、平均購入単価が同じ店でも、年に1回しか買われない店と年に2回買われる店とでは、単純計算でLTVは2倍近く変わります。広告を強めて新規を増やすより、既存のお客さまの購入頻度を1回増やすほうが、投じる労力に対して効果が大きいケースも珍しくありません。どちらが自社にとって現実的かは、LTVとCACを並べて初めて判断できます。
LTVと対で語られるのが、CAC(Customer Acquisition Cost・顧客獲得コスト)です。広告費や販促費を、その期間に獲得できた新規顧客数で割った、一人当たりの獲得コストを指します。LTVがCACを大きく上回っているなら、その事業は健全に成長できる状態にあるといえます。逆にLTVとCACが近い、あるいはLTVのほうが小さいなら、売るほど利益が薄くなる危険な状態です。
マーケティングの世界では、新規顧客の獲得よりも既存顧客を維持するほうがコスト効率に優れる、という考え方が古くから語られています。業種や商材によって実際の差は変わりますが、多くの現場感覚とも一致する方向性です。
リピーターの状態を、数字で捉える
LTVやCACは事業全体の健全さを見る指標ですが、日々の運用ではもう少し手触りのある数字も追う必要があります。代表的なのは次の三つです。
- リピート率:一定期間内に、二回以上購入したお客さまの割合です。全体の何割が「また買ってくれた」かを示します。
- 平均購入間隔:初回購入から次回購入までにかかる日数の平均です。この間隔が縮まっているなら、施策が効いているサインといえます。
- 休眠顧客率:一定期間(半年〜1年など、商材の購入サイクルに合わせて設定)、購入のないお客さまの割合です。ここが増え続けているなら、どこかで接点が切れている可能性があります。
この三つを定点観測するだけで、リピーター育成がうまくいっているかどうかの手がかりが見えてきます。新規顧客数やCVR(購入率)だけを追う運用から、リピート系の数字にも目を向ける運用へ。まずはこの視点の切り替えが、設計の出発点になります。
リピーターが生まれない、よくある落とし穴
リピーターが増えない店には、いくつか共通する落とし穴があります。私たちが日々のEC運営のなかで気をつけている点も含めて、代表的なものを挙げます。
- 初回購入の体験が「普通」で終わっている:商品は届いたが、特に印象に残らない。次に思い出すきっかけがない状態です。
- 購入後の連絡が、次の販促だけになっている:ありがとうの言葉より先に、次の割引クーポンが届く。お客さまは「また売り込まれた」と感じてしまいます。
- 新規獲得の指標しか見ていない:CVR(購入率)や新規顧客数は追っていても、リピート率や購入間隔を定点観測していない事業者は少なくありません。
- 「良い商品を売っていれば、また来てくれるはず」という思い込み:商品力だけでリピートが決まるなら、価格競争にならない業界などありません。体験の設計が伴って初めて、また買いたいという気持ちが生まれます。
- リピーターへの連絡が、新規向けと同じ内容になっている:一度買ってくれた相手だからこそ伝えられる情報や気遣いがあるはずです。初めての人向けの案内をそのまま送っていては、特別感は生まれません。
裏を返せば、これらは全て「設計」で変えられる余地があるということです。担当者の頑張りやセンスに委ねるのではなく、誰が対応しても同じ体験が届く仕組みに落とし込めるかどうかが分かれ目になります。ここからは、初回購入から再購入までを、具体的にどう設計していくかを見ていきます。
初回購入の体験こそが、すべての起点になる
LTVを高める打ち手はいくつもありますが、優先順位を一つだけ挙げるなら、初回購入の体験です。二回目があるかどうかは、初回の印象でほぼ決まると言っても言い過ぎではありません。
私たちラクフルは、リユース・アパレルのEC運営で、検品・撮影・状態表示・梱包の一つひとつに手間をかけています。それは「届いたときに、思っていた通りだった、あるいは思っていた以上だった」という体験を積み重ねるためです。中古品や一点ものを扱う以上、「思っていたのと違った」という体験は一度で信頼を失う致命傷になります。逆に、期待通りの品質が正直に届けば、それだけで次への安心感が生まれます。検品や状態表示にかける手間の中身は、「リユース事業のこだわり」でもお話ししています。
梱包も、この初回体験を左右する要素の一つです。箱を開けた瞬間の印象、簡単な同梱物、丁寧な一言。これらは商品そのものの価値とは別に、「この店で買ってよかった」という感情を生みます。私たちが梱包に手間をかけているのも、単なる作業ではなく、次の購入につながる体験の一部だと考えているからです。
初回体験を整えたうえで、次に効いてくるのが購入後のコミュニケーションです。
購入後のコミュニケーション設計——同梱物からメルマガまで
商品が届いた後、お客さまと店との接点は途切れがちです。特にECは実店舗と違い、次に会う理由を意図的につくらなければ、そのまま忘れられてしまいます。ここに、段階を分けて接点を設計していくことがリピーター育成の実務になります。段階ごとに、代表的な打ち手を整理します。
| タイミング | 打ち手の例 | ねらい |
|---|---|---|
| 商品到着時 | 同梱物(お礼状・簡単な使い方案内・次回使えるクーポン) | 「大切にされている」という実感をつくる |
| 到着後数日〜1週間 | お礼メール・使用感を尋ねるフォローメール | 売り込みではなく関係の継続を示す |
| 購入間隔が近づく頃 | 再入荷・関連商品の案内メルマガ | 「また選べる場所がある」ことを思い出してもらう |
| 一定期間購入がない | 休眠顧客向けの案内(押しつけない頻度で) | 離脱の一歩手前で接点を取り戻す |
ここで大切なのは、どの打ち手も「売る」ためだけの連絡にしないことです。お礼や気遣いが先で、販促は添える程度にとどめる。メルマガの頻度も、多すぎれば配信停止を招き、少なすぎれば忘れられてしまいます。自社の購入間隔のデータを見ながら、心地よい頻度を探っていく必要があります。
また、購入後に届く低評価のレビューやお問い合わせも、リピーターづくりの材料になります。丁寧に向き合った対応は、そのお客さまを再び買い物に向かわせる力を持っています。レビューへの向き合い方の各論は、今後の記事で詳しく解説する予定です。対応そのものの考え方は、「いい会社は、いい顧客対応から生まれる」とも重なります。
商材によっては、あらかじめ次の購入を仕組みに組み込んでしまう方法もあります。消耗品なら定期購入(サブスクリプション)、季節性のある商材なら次シーズンの案内をあらかじめ予約してもらう仕組みなどです。都度の販促に頼らず、次の購入がはじめから決まっている状態をつくれれば、LTVはより安定します。ただし押しつけがましい定期縛りは離脱の原因にもなるため、いつでも見直せる余地を残す設計が欠かせません。
LTVを軸にした運営へ——ラクフルが実践していくこと
私たちは現時点で、複数のECモールでリユース・アパレル商材を運営しています。検品・梱包・顧客対応には日々手間をかけてきました(詳しくは事業紹介をご覧ください)。一方で、LTVという指標を軸に据え、購入間隔や再購入率を体系的に追い、施策の効果を数字で検証する体制は、まだ発展の途上にあります。
今後、私たちが実践していきたいと考えているのは、次のようなことです。
- 購入間隔・リピート率の定点観測:新規獲得の指標と同じ重みで、リピート系の指標を追う体制を整えていきます。
- 同梱物やフォロー連絡の型化:担当者の裁量に任せきりにせず、誰が対応しても一定の温度で届く仕組みに落とし込みます。
- データに基づくメルマガ・案内の最適化:一律の頻度ではなく、購入間隔に応じた無理のないタイミングを探っていきます。
- LTVとCACの関係を可視化する:どの販促がリピーターにつながっているのかを、感覚ではなく数字で振り返れるようにします。
どれも派手な施策ではありません。それでも、日々の積み重ねが、事業の土台を少しずつ強くしていくはずです。
まとめ:リピーターは施策でなく、体験で決まる
新規顧客の獲得が難しくなるほど、リピーターの価値は相対的に高まります。ですが、リピーターは小手先の施策で作り出せるものではありません。初回購入の体験品質があってこそ、その先の同梱物やメールが意味を持ちます。
LTVは、お客さまを値踏みするための数字ではありません。私たちがどれだけ誠実に向き合えたかが、数字となって返ってくるものだと考えています。新規獲得の数字だけでなく、リピート率や購入間隔にも目を向けること。そこから、広告費に頼りきらない事業の土台が育っていきます。
今日からできることは、決して大掛かりではありません。まずは自社の現在のリピート率と平均購入間隔を数字として確認してみること。そこから、初回購入の体験と購入後の一通の連絡を、少しずつ見直していくこと。小さな一歩の積み重ねが、広告に依存しない売上をつくっていきます。
よくある質問
Q. LTVは具体的にどう計算すればいいですか?
A. 最も簡易な形は「平均購入単価×購入頻度×継続期間」です。まずはこの3要素を自社の実績データから割り出し、大まかな目安をつかむところから始めるとよいでしょう。厳密な計算式は利益率や継続率の考え方によって変わるため、まずは相対比較(施策前後でLTVが伸びたか)に使うのが実務的です。
Q. リピート率は何%を目指せばいいのでしょうか?
A. 業種・商材によって適正水準は大きく異なるため、一律の目標値を示すのは適切ではありません。まずは自社の現在のリピート率と購入間隔を把握し、施策を打つ前後でどう変化したかを継続的に追うことをおすすめします。
Q. 新規顧客とリピーター、どちらを優先すべきですか?
A. 二者択一ではありません。新規顧客がいなければリピーターも生まれないため、両方が必要です。ただし新規獲得コストが上がっている局面では、既存のお客さまに再び買っていただく施策の優先順位を上げる価値は大きいといえます。
Q. 同梱物は何を入れればよいですか?
A. 決まった正解はありませんが、お礼状や簡単な使い方案内、次回使える小さなクーポンなどが定番です。大切なのは、内容そのものより「あなたのために用意した」という気持ちが伝わるかどうかです。売り込み色が強すぎると逆効果になることもあるため、バランスを見ながら調整してください。
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参考情報・出典
- 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日公表・2024年データ)
公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社
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