EC人材の育て方|未経験から現場で戦力になるまでの教育設計

「EC担当を採用したけれど、何から教えればいいか分からない」。私たちラクフルは、この悩みに何度も向き合ってきました。求人票には書けても、教える手順は誰も教えてくれない。EC運営は、センスのある人がなんとなく育つのを待つ仕事ではありません。

採用した人が育つかどうかを、その人の適性だけに委ねてしまうと、育つ人と育たない人の差が開くだけでなく、教える側の負担も偏っていきます。未経験者を戦力に変えるには、「何を、どの順番で、どう任せるか」という教育の設計が要ります。

私たちラクフルは、大阪・豊中で国内ECリユース・アパレルを中心に6つの事業を営み、社員33名(パート含む)で複数のモールを日々運営しています。決して大所帯ではないからこそ、一人ひとりを育てる設計には、正面から向き合っていきたいと考えています。

以前の記事「EC運営はなぜ難しいのか|モール販売で差がつく7つの力」では、EC運営で差がつく7つの力の中身を解説しました。この記事はその続編です。「何を身につけるべきか」ではなく、「そのスキルをどう身につけさせるか」という、教育プロセスそのものに焦点を当てます。

この記事で分かること

  • 未経験からEC実務者へ育てるまでの、教育設計の基本的な考え方
  • 「7つの力」を教育カリキュラムへ翻訳する方法
  • 初級・中級・上級で任せる工程の目安(私たちが考えている「EC人材スキルマップ」の枠組み)
  • 育成でつまずきやすいパターンと、その防ぎ方
  • 教育の設計が、そのまま採用戦略になる理由

結論:EC人材は「全部できる人」を探すのではなく、育てる設計でつくる

先に結論をお伝えします。EC人材は、価格設計から顧客対応、データ分析までを最初から一人でこなせる「全部できる人」を探し当てることでは育ちません。工程を分解し、易しいものから一つずつ渡していくことで、社内で育てられるものです。

教育の設計こそが、再現性のある採用戦略になる。これは断定できる実績ではなく、私たちがこれから現場で確かめていきたいと考えている仮説です。以下では、その具体的な組み立て方を見ていきます。

背景:EC市場が広がるほど、育成の設計が問われる

まず、なぜ今この論点が重要なのかを、数字で押さえておきます。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表・2024年データ)によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円で、前年の24.8兆円から5.1%増加しました。物販系分野のEC化率も9.78%と、前年の9.38%から0.40ポイント上昇しています。

EC市場が拡大するということは、それを支える人材の需要も増えるということです。けれど、中小企業が大企業のように大量採用でその需要を満たすのは現実的ではありません。だからこそ、限られた人数で一人ひとりを着実に戦力へ育てる「育成の設計」が、経営課題として重みを増していると私たちは感じています。

採用の現場でも、「EC担当の求人に応募が集まらない」「即戦力を採るつもりが、結局イチから教えることになった」という声をよく耳にします。いわゆる「EC人材不足」は特別な会社の悩みではなく、EC運営に取り組む多くの現場が抱える、ごく普通の課題だと私たちは考えています。

基礎知識:教える前に、「7つの力」を思い出す

教育の中身を組み立てる前に、EC運営で差がつくとされる「7つの力」をおさらいします。以前の記事で解説した内容を、ここでは要点だけ整理します。

ひとことで
①価格設計 続けられる利益の基準をつくる
②回遊導線 迷わせない買い場をつくる
③モール内SEO モールの中で見つけてもらう
④在庫管理 切らさず、余らせない
⑤配送・納期 早く、ていねいに届ける
⑥顧客対応 信頼をつくるふるまい
⑦データ分析 次の一手を数字で決める

詳しい解説はこちらの記事に譲りますが、大事なのは、この7つが同じ難易度・同じタイミングで身につくわけではないという点です。教育の設計とは、この7つに「教える順番」をつけていく作業そのものです。

よくある教育のつまずき

育成がうまくいかない現場には、いくつか共通するパターンがあります。私たちも、この課題と無縁ではないと感じており、これから育成の仕組みを整えるうえで向き合っていきたいと考えているパターンです。

「見て覚えて」で、属人化する

手順を言葉にせず、先輩の背中を見て覚えさせるやり方です。教える側は楽ですが、教わる側は「何を見ればいいか」すら分からず、成長の速さが個人の勘の良さに左右されてしまいます。結果として、特定の人にしか任せられない工程が増えていきます。たとえば「価格は感覚で決めている」としか言えない先輩の下では、後輩はいつまでも価格判断を任せてもらえません。

最初からすべてを任せて、溺れさせる

人手が足りない現場ほど、「早く一人前になってほしい」という焦りから、価格判断や顧客対応の難しい場面まで一気に任せがちです。7つの力を同時に鍛えようとすると、どれも中途半端なまま、本人が自信を失ってしまいます。初日から複雑なクレーム対応を任され、萎縮してしまうケースはその典型です。

フィードバックが感覚的で、再現できない

「なんとなく違う」「もっとこう」といった感覚的な指摘だけでは、次にどう直せばいいか本人には伝わりません。良し悪しの基準を言葉にしていないと、フィードバックのたびに教える側の気分や経験に頼ることになります。同じミスを指摘されても、人によって言うことが違えば、本人はどちらを信じればいいか分からなくなります。

教える時間が、他の業務に押しつぶされる

とくに少人数の現場では、教育担当も自分の実務を抱えています。教える時間を業務の「すきま」に頼っていると、忙しい時期ほど育成が後回しになり、新人が放置される時間が長引いてしまいます。繁忙期に「あとで教えるから」が積み重なり、気づけば1か月放置していた、という声も珍しくありません。

未経験から戦力化までの教育設計——工程を分解して、一つずつ渡す

ここからは、私たちが大切にしたいと考えている教育設計の考え方を、具体的にお伝えします。出発点はシンプルです。7つの力を、難易度と影響範囲で並べ替え、段階ごとに任せる工程を決めていく。

段階を分けて、任せる工程を決める

7つの力には、「間違えても被害が小さく、判断の余地が少ない定型作業」と、「間違えると影響が大きく、経験に基づく判断が要る仕事」があります。最初に前者から任せ、経験を積みながら後者へ広げていくのが、無理のない順番です。

段階 主に任せる工程 ねらい
初級 受注処理、検品・出品の補助、決められた手順での梱包・配送 手順を体に覚えさせ、正確さの基準を身につける
中級 在庫管理、モール内SEOの調整、定型的な顧客対応 数字と向き合いながら、自分で小さな判断を下す経験を積む
上級 価格設計、回遊導線の設計、複雑な顧客対応、データ分析からの改善提案 複数の力を掛け合わせ、成果全体に責任を持つ

この並びに絶対の正解はありません。事業やモールの特性によって、どの力から任せるべきかは変わります。それでも「間違えたときの影響が小さいものから渡す」という考え方は、どんな現場にも応用できると私たちは考えています。

教える手順そのものにも、型をつくる

段階を決めたら、次は「教え方」にも手順をつけていきたいと考えています。私たちが大切にしたいと考えているのは、次の4つのステップです。

  • 一緒にやってみせる:まずは教える側が実際にやり、なぜその判断をしたのかを言葉にしながら見せます。
  • 理由を説明する:手順だけでなく、「なぜこの順番か」「なぜこの基準か」を伝えます。理由が分かると、応用が利くようになります。
  • 一人でやらせてみる:小さな範囲から、本人にやらせます。失敗しても取り返しがつく範囲を選ぶのがポイントです。
  • 結果を具体的にフィードバックする:感覚ではなく、「ここは基準通り、ここはこう直すとよい」と具体的に伝えます。

このステップは、決して目新しいものではありません。けれど、意識してこの順番を踏むかどうかで、育つ速さは変わってくるはずだと私たちは考えています。「見て覚えて」との違いは、教える側が理由を言葉にする一手間を惜しまないかどうかです。

スキルマップを、共通言語にしたい

段階ごとに何を任せるかを一覧にしておければ、本人にとっても教える側にとっても「今、自分はどこにいて、次に何を身につければいいか」が見えやすくなるはずです。これは評価のためだけの表ではなく、育成の進み具合を、本人と会社が同じ言葉で確認するための道具にしていきたいと考えています。私たちは今、この「EC人材スキルマップ」を社内で明文化していく計画を立てています。

ラクフルの組織で、これから実践していきたいこと

私たちは、社員33名(パート含む)という決して大きくない組織で、リユース・アパレルをはじめとする6つの事業を運営しています。少人数だからこそ、一人が休んでも仕事が止まらないよう、力を個人の頑張りだけに頼らず、仕組みへ変えていく必要があります。

私たちのバリューの一つに「再現性」があります。総合力は一部の才能ある人の職人技ではなく、仕組みとして再現できるはずだという考え方です。教育の設計は、このバリューを人材育成の場面で実践する取り組みだと私たちは捉えています。

2021年にホワイト企業認定プラチナを取得した私たちにとって、育成の仕組み化は、教わる人の負担を減らすだけでなく、教える側の負担も減らすことにつながります。子育て中の仲間や、他の業務と兼務する仲間が教育を担っても、一定の質を保てるようにする。これが、私たちがこれから実践していきたい姿です。

具体的には、次のような取り組みを、まだ道半ばのものも含めて進めていきます。

  • 段階別スキルマップの明文化:初級・中級・上級で任せる工程を、部署ごとの実務に合わせて言語化していきます。
  • 検品・出品など判断基準のマニュアル化:「なんとなく」で伝えてきた基準を、誰が読んでも同じ判断ができる形に落とし込みます。
  • 教育担当のローテーション:特定の一人だけが教える体制ではなく、複数人が教えられる状態を目指します。
  • フィードバックの型の共有:感覚的な指摘ではなく、具体的で再現可能なフィードバックの仕方をチームで揃えていきます。

どれも、明日から完璧にできるものではありません。それでも、一つずつ積み重ねていくことに意味があると考えています。

育成の設計は、そのまま「選ばれる採用」になる

教育設計には、もう一つの効果があります。「育つ環境があるかどうか」は、求職者がEC職を選ぶうえで、給与や待遇と同じくらい気にするポイントだと私たちは考えています。

未経験からでも段階を踏んで戦力になれる道筋が見えている会社と、「とにかく頑張って覚えてください」としか言えない会社とでは、応募する側の安心感がまったく違います。育成の設計を整えることは、教える側の負担を減らすだけでなく、採用の場面でも選ばれる理由になります。

私たちは、この考え方を採用の入口でも伝えていきたいと思っています。EC職に興味を持ってくださる方には、ぜひ採用情報のページもご覧いただければと思います。

まとめ:教育の設計こそ、再現性のある採用戦略になる

EC人材は、最初から「全部できる人」を探し当てるものではありません。7つの力を難易度で並べ替え、易しい工程から一つずつ渡していく。教える手順にも「やってみせる→理由を説明する→やらせてみる→具体的にフィードバックする」という型をつくる。この積み重ねが、未経験者を着実に戦力へと育てていきます。

私たちラクフルも、社員33名という決して大きくない組織で、この設計にまだ挑戦している最中です。それでも、育成を個人の頑張りではなく仕組みへ変えていくことが、教わる人にとっても、教える人にとっても、そして会社にとっても、いちばん誠実なやり方だと信じています。

よくある質問

Q. EC未経験者に、まず何を教えるべきですか?

A. 間違えても影響が小さく、判断の余地が少ない定型作業から始めるのがおすすめです。受注処理や検品の補助、決められた手順での梱包・配送などが該当します。ここで手順の正確さと基準を体に覚えてもらってから、在庫管理や顧客対応など、判断を伴う工程へ広げていきます。

Q. 教育担当者が一人しかいない小規模なECでも、育成の仕組みはつくれますか?

A. つくれます。まず取り組みやすいのは、判断基準を言葉にしてメモや手順書に残すことです。担当者が一人でも、基準さえ言語化されていれば、忙しいときに別の人が代わりに教えても質がぶれにくくなります。仕組み化は人数の多さではなく、基準を書き出すところから始められます。

Q. 未経験からEC担当者として一人前になるまで、どのくらいの期間を見込めばいいですか?

A. 扱う商材やモールの数によって幅があるため、一律の期間を断定することはできません。大切なのは期間そのものより、「今どの段階にいて、次に何を任されるか」が本人に見えていることです。段階が明確であれば、期間が多少延びても本人の不安は小さくなります。

Q. EC担当者としてのキャリアパスは、どう考えればよいですか?

A. 初級で定型作業、中級で在庫管理やモール内SEOの調整、上級で価格設計や複数モールを横断した意思決定へと、任される範囲が広がっていくのが一般的な道筋です。将来的にはデータ分析を軸にした改善提案や、後進の教育を担う役割へつながっていくキャリアも考えられます。

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公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社(EC事業運営の現場より)

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