越境ECを始めようとしたとき、最初に立ち止まるのが「海外へどうやって荷物を送ればいいのか」という問いではないでしょうか。国内配送なら宅配便を選べば済みますが、海外向けの選択肢はそう単純ではありません。EMS、国際宅配便(クーリエ)、海外倉庫といった手段が並び、料金も届く日数も、補償の手厚さもサービスごとに違います。
私たちラクフルも、越境ECの本格化に向けて準備を進めるなかで、この「発送方法の選び方」に何度も向き合ってきました。答えを一つに絞れないからこそ、判断の軸を持つことが大切だと感じています。
この記事では、越境ECの全体像や関税・通関の詳しい制度解説には立ち入りません。「初めての海外発送で、何をどう比べて選べばいいか」という一点に絞ってお伝えします。数字と制度は、必ず公的資料・公式発表で確認したものだけを使います。
この記事で分かること
- 国際郵便(EMS・国際エアパケット)・クーリエ(国際宅配便)・海外倉庫、3つの選択肢の違い
- コスト・スピード・追跡と補償・向く商材で比べる判断の軸
- 2026年7月時点で押さえておきたい米国向け配送の制度変化
- 「届かない・壊れる」不安に、追跡と補償の設計でどう備えるか
- 私たちがTABI SneakersのKickstarterで海外へ荷物を届けた経験
結論から|海外配送に「万能の正解」はない
先に結論をお伝えします。EMS・クーリエ・海外倉庫のどれか一つが常に正しいということはありません。商材の単価、サイズ・重量、届けたい速さ、そして「追跡と補償をどこまで確保したいか」によって最適解は変わります。
送料の安さだけで選ぶと、届かない・壊れたときに取り返しがつきません。追跡と補償を軽視しない設計が、結局いちばん安くつきます。
大切なのは、選択肢を知らないまま一つの方法に決め打ちしないことです。まずは3つの選択肢の全体像から見ていきます。なお、越境EC全体の始め方や費用・関税・通関の詳しい制度は、別記事(今後公開予定)に譲ります。この記事では、配送手段の比較に絞ってお伝えします。
海外配送、3つの選択肢の全体像
越境ECで商品を海外へ届ける方法は、大きく3つに分けられます。日本郵便の国際郵便(EMS・国際エアパケットなど)と、DHLやFedExに代表される国際宅配便(クーリエ)。そして、現地の倉庫にあらかじめ商品を送っておく海外倉庫(フルフィルメント)です。
それぞれの特徴を、コスト・スピード・追跡と補償・向く商材という4つの軸で比べてみます。
| 選択肢 | コストの傾向 | スピード | 追跡・補償 | 向く商材 |
|---|---|---|---|---|
| 国際郵便(EMS・国際エアパケット等) | 比較的安い(重量・地帯で変動) | EMSは速い/エアパケットは標準的 | サービスにより差がある(EMSは手厚い補償あり) | 小〜中型・単価が中程度までの商品 |
| クーリエ(国際宅配便) | やや高め(重量・容積が影響) | 速い(国際郵便より短納期になりやすい) | 基本的に追跡・補償が手厚い | 急ぎの発送・高額品・法人向け |
| 海外倉庫(フルフィルメント) | 初期はやや高め、稼働後は抑えやすい | 現地発送のため注文後は速い | プラットフォームの仕組みに依存 | 売れ筋が読める商品・継続的な販売 |
国際郵便は日本郵便が扱う公的なサービスで、比較的安価に送れる一方、サービスによって追跡や補償の手厚さが異なります。クーリエは民間の宅配便会社が扱う国際宅配便で、スピードと追跡・補償の手厚さが強みですが、その分コストは上がりがちです。海外倉庫は、あらかじめ現地の倉庫へ商品をまとめて送っておき、注文後に現地から発送してもらう方法です。
国際郵便で送る|EMSと国際エアパケットの基礎
日本郵便が提供する国際郵便には、複数のサービスがあります。越境EC実務でまず押さえておきたいのは、EMS(国際スピード郵便)と国際エアパケットの2つです。
EMS(国際スピード郵便)|追跡・補償つきの最速サービス
EMSは世界120以上の国・地域に、重さ30kgまでの書類・荷物を送れる、日本郵便の国際郵便のなかで最も速いサービスです。追跡は郵便追跡サービスで確認でき、損害賠償の仕組みも備わっています。差出時に申出がなければ、損害要償額は2万円までです。2万円を超える場合は「2万円またはその端数ごとに50円」の追加料金(保険料)を払うことで、最高200万円まで補償額を増やせます。
単価が高めの商品や急ぎの荷物には、この補償の上乗せが安心材料になります。
国際エアパケット|世界中に送れる、追跡つきの標準サービス
もう一つの選択肢が国際エアパケットです。これは2026年6月1日に「国際eパケットライト」から名称変更されたサービスです。同時に、取扱国・地域が航空便運休中を除く全世界へ拡大されました。重量は2kgまでで、追跡サービスが付きます。料金は重量帯・地帯別に5段階(100gで720〜920円、2kgで2,620〜5,860円。国際特定記録料370円を含む)で設定されています。ラベルは国際郵便マイページサービスでの作成が必須で、手書きラベルは使えません。
EMSより安価で、追跡もつくため、単価がそれほど高くない小型の商品を数多く発送する場合に向いています。ただしEMSほどの手厚い補償はついていないため、高額品や壊れやすい商品にはEMSや後述のクーリエを検討したほうが安心です。
20万円という、郵便とクーリエの分かれ道
国際郵便には、金額による制度上の分岐点があります。価格が20万円を超える国際郵便物は、差し出す・受け取る際に原則として税関への輸出入申告が必要です(20万円以下は簡易な取扱い)。この見直しは、国際郵便による商業貨物の増加で、他の民間の貨物運送業者(クーリエ)との競合性が高まったことが理由です。
裏を返せば、クーリエ(国際宅配便)の貨物は一般貨物として扱われるため、金額にかかわらず輸出入申告の対象になります。「少額なら郵便、高額・急ぎならクーリエ」という使い分けの背景には、こうした制度上の違いがあります。
クーリエ(国際宅配便)で送る|スピードと通関の強み
クーリエは、DHLやFedEx、UPSといった民間の国際宅配便会社が提供するサービスの総称です。自社便を持ち、通関手続きも一体で担うため、国際郵便より速く、追跡・補償も手厚いのが一般的な特徴です。急ぎの発送や、高額品・壊れやすい商品、法人向けのまとまった発送に向いています。
一方でコストは国際郵便より高めになりやすく、重量や容積によって料金が大きく変わる点には注意が必要です。各社の具体的な料金体系・対応国数はサービス改定が頻繁なため、この記事では料金の一覧化はせず、判断軸の提示に留めます。発送直前に各社公式サイトで、最新の条件をご確認ください。
近年は米国向け配送で、関税を購入時点で確定させる「DDP(関税込み配送)」を採用する動きも広がっています。イーベイ・ジャパンが2026年3月に公開した「2025年間 越境ECレポート」によれば、同社は2025年、米国向け取引でDDPを必須化しました。米国のデミニミス(少額免税)ルール撤廃を受けた対応で、購入時点で総額を明確にします。制度変更をきっかけに、日本セラーの販売先は欧州・豪州・アジアへも広がり、販路の多極化が進んだと総括されています。クーリエはこうしたDDP対応と相性がよく、通関から関税支払いまで一体で任せられる点が強みです。
海外倉庫(フルフィルメント)という第三の選択肢
国際郵便でもクーリエでもなく、あらかじめ現地の倉庫に商品を送っておき、注文が入ったら現地から発送する「海外倉庫(フルフィルメント)」という方法もあります。
代表例が、Amazonのグローバルセリングです。公式ページによれば、1つのセラーセントラルで複数地域のAmazonマーケットプレイスへの出品・登録を一元管理できます。対象は北米・ヨーロッパ・アジア太平洋・中東・トルコと幅広く、米国やドイツ、オーストラリアなどが含まれます。FBA(Fulfillment by Amazon)を使えば、事前にまとめて現地倉庫へ商品を送っておけます。注文後の梱包・発送・カスタマー対応も、Amazon側に任せられます。
海外倉庫のメリットは、注文が入ってからの発送が現地起点になるため、購入者への到着が速いことです。一方で、あらかじめまとまった量を現地へ送り込む初期の輸送・在庫コストがかかり、「本当に売れるか分からない商品」を大量に送り込むリスクもあります。売れ筋がある程度見えてきた商品を、継続的に販売する段階に向いた選択肢だといえます。国際郵便やクーリエで少量から試し、手応えを掴んでから海外倉庫を検討する、という段階的な進め方が中小企業には現実的です。
送料だけでなく「制度の変化」も選択に影響する
海外配送は、送料やスピードだけで決まるものではありません。ここ数年、配送先国の制度が大きく動いているため、発送前に「今、その国宛ての荷物はどう扱われているか」を確認する必要があります。2026年7月時点でとくに押さえておきたいのが、米国向け配送をめぐる一連の変化です。
米国のデミニミス(少額免税)撤廃と、日本郵便の対応
米国は2025年7月30日の大統領令(EO14324)により、「デミニミス」制度の適用を全世界向けに停止しました(発効2025年8月29日)。デミニミスとは、800ドル以下の少額輸入貨物を関税免除としてきた制度で、原産国・輸送手段を問わず対象になります。あわせて2025年7月4日成立の税制歳出法「One Big Beautiful Bill Act」により、デミニミス免税の法的根拠自体も廃止が決定しています(廃止日2027年7月1日)。2026年2月20日の大統領令(EO14388)で停止措置は継続されており、2026年7月時点でも状況は変わっていません。制度は今後も動くため、最新情報はその都度チェックすることをおすすめします。
これを受け日本郵便は2025年8月27日から、内容品価格100米ドル超の米国宛て郵便物の引受を一時停止していました。2026年4月14日以降は指定郵便局で引受を再開しています。ただし100米ドル超〜800米ドル以下の郵便物には条件があります。米国税関が認証した事業者(現在はZonos社)のアプリケーションで、差出人があらかじめ関税等を支払う必要があります。書類や100米ドル以下の個人間贈答品は、従来どおり事前登録なしで差出可能です。
米国向けの製品規制にも要注意
2026年7月8日からは、米国のCPSC(消費者製品安全委員会)規制対象製品について新ルールが始まりました。輸入通関時の電子申告(eFiling)が義務化されています。日本郵便の米国宛て国際宅配便サービス(UGX)では、対象になり得る商品(子ども用製品、家庭用品・家具、家電、繊維・アパレル等)を差し出す際、製品識別コードや製造者情報といった証明情報の事前準備が必要です。準備できない商品は、発送を受け付けてもらえません。米国輸入通関日が起算日のため、7月8日より前の発送分も対象になり得る点に注意が必要です。
「関税・通関の詳しい仕組み(HSコードやインボイス、DDPとDDUの違いなど)」は、別記事(今後公開予定)で体系的に解説する予定です。
追跡と補償を軽視しない|届かない・壊れる不安への備え
海外配送でもっとも避けたいのは、「発送したのに、お客様の手元に届かない」「壊れて届いた」というトラブルです。国民生活センターの越境消費者センター(CCJ)には、2024年度に6,005件の越境消費者相談が寄せられました。トラブル類型別では「商品未到着」が7.0%(422件)、「不良品」が1.8%(109件)を占めています。これは日本の消費者が海外事業者から購入した際の相談であり、私たちが海外へ販売する立場のデータではありません。それでも、越境取引で「届かない・壊れる」不安が現実の相談として存在する事実は、海外へ発送する側にとっても他人事ではないと感じています。
だからこそ、料金の安さだけで発送方法を決めないことが大切です。追跡番号がきちんと付くか、補償はどこまでカバーされるかを、必ず事前に確かめておきましょう。EMSのように補償を大きく積み増せるサービスもあれば、追跡はついても補償が薄いサービスもあります。高単価の商品ほど、補償の手厚さを優先して選ぶ判断が必要です。
私たちラクフルが、海外へ届けてきたこと
ここまで一般論としての配送方法の比較をお伝えしてきましたが、私たちにも一つ、海外へ荷物を届けた実際の経験があります。私たちが開発した「TABI Sneakers」は、Kickstarterで800足以上のご支援をいただいた実績があります。支援してくださった方々のもとへ、一足ずつ海を越えて届けてきました。
クラウドファンディングという性質上、発送は決して単純ではありませんでした。国によって、届くまでの日数も税関での扱いも異なります。荷物が「今どこにあるのか」を支援者に伝えられる追跡の仕組みが、どれほど安心材料になるかを、私たちはこの経験から実感しました。発送の先にある信頼構築については、別記事「越境ECで選ばれる会社になるために、本当に必要なこと」でも触れています。まだ本格的な越境EC体制を整えている途中ですが、この一足ずつ届けてきた経験を、これから整える海外配送の設計に活かしていきたいと考えています。
まとめ|商材と体制に合わせて、追跡と補償から選ぶ
海外配送に、誰にでも当てはまる万能の正解はありません。単価が手頃で数が多いなら国際エアパケットのような国際郵便、急ぎ・高額品・法人発送ならクーリエ、売れ筋の継続販売なら海外倉庫。商材の単価・サイズ・急ぎ度によって、選ぶべき方法は変わります。
そのうえで、どの方法を選ぶときも忘れてはいけないのが、追跡と補償です。送料の安さだけを追いかけて、届かない・壊れたときに何もできない状態を選ぶのは、結局いちばん高くつきます。私たちも、TABI SneakersのKickstarterで培った経験を土台にしています。これから整える越境ECの配送体制でも、この考え方を大切にしていきます。
よくある質問
Q. 個人事業でも越境ECの海外配送はできますか?
A. EMSや国際エアパケットといった国際郵便は、個人事業でも日本郵便の窓口やオンラインサービスから利用できます。クーリエ各社にも個人向けプランがある場合があるため、まずは国際郵便から小さく試し、発送量が増えたらクーリエや海外倉庫を検討する進め方が現実的です。
Q. EMSと国際エアパケット、迷ったらどちらを選ぶべきですか?
A. 商品の単価や重さで考えましょう。2kg以下で単価がそれほど高くない商品なら、国際エアパケットが割安です。単価が高い・急ぎ・手厚い補償が必要という場合は、EMSを検討してください。
Q. 送料はどのくらいかかりますか?
A. 重量・届け先の地帯・サービスの種類によって幅があるため、具体額はこの記事では一覧化していません。目安として、クーリエは国際郵便より高くなりやすい傾向があります。日本郵便や各クーリエの公式サイトで、最新の料金表をご確認ください。
Q. 荷物が届かない・壊れていたときはどうすればいいですか?
A. 利用したサービスの追跡番号で配送状況を確認し、補償制度の対象かどうかを確認します。EMSなら損害要償額の範囲内で賠償を申請できます。補償の上限額を把握したうえで発送方法を選んでおくと、トラブル時の対応がスムーズになります。
Q. 米国向けは今、何に気をつければいいですか?
A. 2026年7月時点では、デミニミス(少額免税)の停止が続いており、内容品価格100〜800米ドルの郵便物は事前の関税支払い手続きが必要です。CPSC規制対象製品はeFilingの証明情報が求められる場合もあるため、事前に確認してください。制度は変わりやすいため、最新案内をその都度チェックすると安心です。
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- 越境ECで選ばれる会社になるために、本当に必要なこと — 信頼構築の考え方
- 事業・サービス紹介 — ラクフルの事業全体像
参考情報・出典
- 日本郵便株式会社「EMS(国際スピード郵便)」サービスページ(2026年7月閲覧)
- 日本郵便株式会社 国際郵便FAQ「EMSの損害賠償額はいくらでしょうか?」(2026年7月閲覧)
- 日本郵便株式会社「国際エアパケット」サービスページ(2026年5月13日プレスリリース・2026年6月1日名称変更)
- 税関「価格が20万円を超える国際郵便物の通関手続見直しQ&A」(2009年2月)
- The White House「Suspending Duty-Free De Minimis Treatment for All Countries」(Executive Order 14324)(2025年7月30日)
- The White House「Fact Sheet: Suspending the De Minimis Exemption for Commercial Shipments Globally」(2025年7月30日)
- The White House「Continuing the Suspension of Duty-Free De Minimis Treatment for All Countries」(Executive Order 14388)(2026年2月20日)
- 日本郵便株式会社「(続報)米国宛て郵便物の引受再開のお知らせ」(2026年4月13日・6月19日追記)
- 日本郵便株式会社「米国宛てUGXにおけるCPSC規制に係る対応方法について」(2026年6月8日)
- 独立行政法人国民生活センター「2024年度 越境消費者相談の状況(CCJ)」(2025年8月6日公表)
- Amazon出品サービス公式「Amazonでの世界販売(グローバルセリング)」(2026年7月閲覧)
- イーベイ・ジャパン株式会社「2025年間 越境ECレポート」プレスリリース(2026年3月9日)
公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社
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