「売れているはずなのに、気づけば欠品ばかり」。あるいは逆に「倉庫にはモノがあふれているのに、キャッシュが常に足りない」。EC運営を続けていると、この二つの悩みは形を変えながら何度も顔を出します。
欠品と過剰在庫は、別々の問題に見えます。しかし実際には、多くの場合、同じ会社の中で同時に起きています。ある商品は売り切れが続き、別の商品は棚で眠り続ける。原因を突き詰めると、たいてい在庫を「数える作業」としてしか扱えていないことに行き着きます。
私たちラクフルは、大阪・豊中で国内ECリユース・アパレル事業を営んでいます。複数のモールで、一点ものを含む在庫を日々動かしている会社です。この記事では、在庫管理の基本的な考え方から、欠品・過剰在庫が起きる構造までを整理します。そのうえで、実務での設計の仕方を、私たちの現場目線で一緒に見ていきます。
この記事で分かること
- 在庫回転率・安全在庫・リードタイムなど、押さえておきたい基本指標
- 欠品と過剰在庫が、同じ会社で同時に起きてしまう構造
- 発注点とABC分析を使った、実務で回せる在庫設計の手順
- 通常在庫と「一点もの在庫」で、管理の考え方がどう違うか
- 事業規模に応じた在庫管理ツール・システムの選び方
売れているのに、なぜ欠品と過剰在庫が同時に起きるのか
経済産業省は、国内BtoC-EC(消費者向け電子商取引)の市場規模を毎年調査しています。2024年の物販系分野の市場規模は、15兆2,194億円でした。前年比では3.70%の増加です。物販系分野におけるEC化率(物販系の全商取引金額に占める、EC取引額の割合)も9.78%まで上昇しました。市場が伸びるほど、出店するモールの数も、扱う商品点数も増えていきます。
出典: 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表・2024年データ)
在庫管理が難しくなるのは、まさにこの「増える」局面です。商品点数が10点のときは、目視の管理でも足りていました。それが100点、1,000点と増えるにつれて、感覚だけでは追いつかなくなります。それでも多くの現場では、仕組みを変えないまま点数だけが増え続けます。結果として、売れ筋は欠品し、動きの遅い商品は在庫として積み上がる。この二つは、別々の失敗ではありません。同じ「在庫を設計せずに数えているだけ」という状態から生まれる、表裏の症状です。
欠品も過剰在庫も、発生した直後には気づきにくいものです。欠品は「たまたま売り切れた」ように見えます。過剰在庫は「まだ倉庫にスペースがあるから」と、後回しにされがちです。どちらも、月次や期末の数字を締めて初めて、機会損失や資金繰りの重荷として姿を現します。だからこそ、感覚に頼らず、日々の在庫を指標で見る習慣が必要になります。
在庫管理の基本指標を押さえる
実務の話に入る前に、よく使われる指標を整理しておきます。専門用語はいったん噛み砕いてから使うと、社内での会話がぐっと楽になります。私たちも、複数モールの在庫を日々動かす中で、この指標をチームの共通言語として使っています。
| 指標 | 計算式(目安) | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 在庫回転率 | 一定期間の売上原価 ÷ 平均在庫金額 | 在庫がどれだけの速さで入れ替わっているか。数値が高いほど資金が寝ていない |
| 在庫日数 | 365日 ÷ 在庫回転率 | 今ある在庫が、平均して何日分の販売量にあたるか |
| 安全在庫 | 需要のばらつきとリードタイムから算出 | 欠品を避けるために最低限持っておきたい在庫量 |
| 発注点 | (リードタイム中の平均需要)+安全在庫 | この水準まで在庫が減ったら、次の発注を出すタイミング |
| リードタイム | 発注してから入荷するまでの日数 | 短いほど、安全在庫を薄くできる |
この中でとくに誤解されやすいのが在庫回転率です。「回転率は高ければ高いほどよい」と思われがちです。しかし高すぎる回転率は、裏を返せば「在庫を薄く持ちすぎて欠品しやすい状態」でもあります。回転率は、良し悪しを判断する数字というより、自社の在庫の性質を映す鏡として使うのが実務的です。私たちも、単純に高い数字を追うのではなく、商品ごとの性質を確かめる材料として回転率を見るようにしています。
欠品が起きる構造、過剰在庫が起きる構造
欠品と過剰在庫は、原因を分けて考えると対策が見えてきます。まず欠品側から見ていきます。
欠品が起きる典型パターン
欠品の多くは「発注のタイミングを決めていない」ことから始まります。在庫がゼロに近づいてから慌てて発注し、リードタイムの間に売り切れてしまう。よくあるのは、こんな流れです。先月の実績をもとに今月分を発注したところ、今月に入って需要がさらに伸び、発注した量では足りなくなるパターン。セールやSNSでの話題化など、需要が急に跳ねる要因を事前に織り込めていないことも、欠品の引き金になります。
過剰在庫が起きる典型パターン
過剰在庫は、欠品を恐れるあまり「多めに発注しておけば安心」という判断が積み重なって生まれます。ロット単位の発注条件や、まとめ買いによる仕入単価の下がり幅につられて、必要以上の数量を仕入れてしまうこともあります。さらに、季節商品や流行商品は、売れる期間を過ぎた瞬間に価値が下がります。発注のタイミングが少しずれただけで、そのまま長期の滞留在庫になってしまうのです。
欠品を恐れて多めに発注する判断が、次の商品の欠品を招くことがあります。過剰在庫にキャッシュと保管スペースが固定されると、本当に売れている商品への再投資が遅れるからです。欠品と過剰在庫は、対策を怠った結果として起きるだけではありません。片方への対策のしすぎが、もう片方を引き起こすという構造でもつながっています。
発注点と安全在庫を設計する
ここからは、実務でどう手を動かすかの話です。最初にやるべきは、勘に頼った発注をやめ、「発注点」を商品ごとに決めることです。
発注点は、大まかには「リードタイム中に見込まれる需要」に「安全在庫」を足した水準です。リードタイムが長い商品ほど、その間に売れてしまうリスクが大きくなります。そのため、発注点は高めに設定する必要があります。逆に、翌日には仕入れられる商品であれば、安全在庫は薄くても欠品しにくくなります。
安全在庫の量は、需要のばらつきが大きい商品ほど厚めに、ばらつきが小さい商品ほど薄めにするのが基本です。毎月ほぼ同じ数が売れる定番商品と、月によって売れ行きが大きく変わる商品を、同じ計算式で扱うと、どちらかで無理が生じます。私たちも、精緻な数式にこだわりすぎないようにしています。「この商品は変動が大きいから厚めに」という判断軸を言葉にして、チームで共有するのが実務的だと感じています。属人化を防ぐ、いちばん手軽な第一歩です。
ABC分析でメリハリをつける
商品点数が増えてくると、すべての商品に同じ手間をかけて在庫管理をするのは現実的ではありません。ここで役立つのがABC分析という考え方です。
売上や販売数量への貢献度が高い順に商品を並べ、A・B・Cの3つのグループに分けます。Aグループは全体の売上の大半を占める少数の主力商品です。Bグループはそれに次ぐ商品群、Cグループは点数は多いものの一つひとつの売上貢献は小さい商品群、というイメージです。
| グループ | 特徴 | 在庫管理での扱い方 |
|---|---|---|
| Aグループ | 点数は少ないが、売上・利益への貢献が大きい | 発注点・安全在庫を細かく設計し、欠品を最優先で防ぐ |
| Bグループ | Aほどではないが、安定した需要がある | 定期的な棚卸で状況を確認し、必要に応じて発注ルールを見直す |
| Cグループ | 点数は多いが、個々の売上貢献は小さい | 簡易なルール(定期発注や最低発注数)に任せ、手間をかけすぎない |
限られた人手をどこに配分するかを考えるとき、この3分類はとても実務的です。Aグループの欠品は事業への打撃が大きいので、手厚く見ます。一方でCグループにまで同じ精度を求めると、管理する側が疲弊してしまいます。私たちも複数モールで多品目を扱っています。主力の売れ筋にはとくに神経を使う一方、点数の多い周辺商品は簡易なルールに任せています。そうすることで、限られた人手のバランスを取っています。すべてを均等に見ようとしないことが、結果として在庫管理全体の精度を上げます。
一点ものの在庫管理は何が違うのか
ここまでは、同じ商品を繰り返し仕入れる「通常在庫」を前提に話してきました。しかし私たちが日常的に向き合っているリユース事業の在庫は、性質がまったく異なります。
リユース品の多くは「一点もの」です。同じ型番の中古家電でも、状態や付属品の有無は一台ごとに違います。まったく同じ商品を、再び仕入れることはできません。発注点や安全在庫といった「補充を前提にした指標」は、この一点ものにはそのままでは当てはまりません。在庫がなくなったら、次に入荷するのは「似た商品」であって「同じ商品」ではないからです。
その代わりに一点もの在庫で重要になるのが、状態表示の正確さと、複数モールに出品している場合の在庫連動の速さです。私たちは複数のECモールで一点ものを同時に出品しています。どこかのモールで売れた瞬間に、他のすべての売り場から在庫を下げる仕組みが必要です。この仕組みがなければ、「買えたはずの商品が実はもう無い」という事態が起きてしまいます。一点しかない在庫だからこそ、数量の管理よりも、状態の記録と連動のスピードが管理の中心になるのです。この複数モール間の在庫連携については、論点が広いため、別記事で詳しく解説する予定です。
在庫管理システム・ツールの選び方
在庫管理の考え方が固まったら、次はそれを支える仕組みの話です。手作業だけで管理できる点数には限りがあります。事業の規模に応じて、道具を見直す判断が必要になります。
商品点数が少なく、出店先も1つか2つのうちは、表計算ソフトでの管理でも十分に回ります。無理にシステムを導入するより、まず発注点やABC分析といった「考え方」を社内でそろえるほうが優先です。点数が増え、複数モールへの出店が視野に入ってきた段階になったら、在庫を一元管理できるシステムへの移行を検討します。それが現実的な順序です。私たちも、モールの数が増える中で、この移行のタイミングを本気で見極めながら仕組みを育ててきました。
システムを選ぶときに見るべきポイントは、機能の多さよりも、自社の出店チャネルにどこまで対応しているかです。加えて、在庫の反映速度がどれくらい速いかも重要です。反映が数分単位で遅れるだけでも、一点ものや人気商品では売り越しの原因になります。多機能でも自社の使い方に合わなければ、かえって運用が複雑になり、現場に定着しません。まずは「今いちばん困っている工程」を一つ選び、そこを解決できるかどうかで比較するのが、遠回りに見えて確実な選び方です。
もう一つ見落とされがちなのが、システムを入れた後の運用体制です。どれほど優れた仕組みを導入しても、発注点やABC分析の考え方を現場のメンバーが理解していなければ意味がありません。結局は「数字が出てくるだけ」の道具で終わってしまいます。ツールは判断を助ける計器であって、判断そのものを代わりにやってくれるわけではありません。導入と同時に、誰がどの数字を見て、何を決めるのかというルールも一緒に決めておくことが、定着の分かれ目になります。
まとめ:在庫は「数える作業」ではなく「設計する仕事」
在庫は、持ちすぎても、足りなくても、どちらも事業にとっての損失です。欠品は売り逃しという分かりやすい損失を生みます。過剰在庫は、キャッシュと保管スペースを固定するという、見えにくい損失を生みます。
在庫を毎日数える作業として捉えるのではなく、回転率・安全在庫・発注点といった指標で「設計する仕事」として捉え直す。これが、大切な一歩目です。ABC分析で手間の配分にメリハリをつけ、自社の商品が通常在庫なのか一点もの在庫なのかを見極める。この積み重ねが、欠品にも過剰在庫にも振り回されない在庫管理をつくります。
私たちも、複数モールで一点ものを扱う現場だからこそ直面する難所と、日々向き合っています。在庫管理に正解の型はありません。それでも一つずつ指標に置き換えて設計していくと、悩みの輪郭がはっきりしてきます。数字と向き合う地道な作業の先に、欠品にも過剰在庫にも振り回されない現場がある。私たちは、そう信じて今日も在庫と向き合っています。
よくある質問
Q. 在庫回転率は、どれくらいの数値を目指せばよいですか?
A. 業種や商品単価によって適正な水準は大きく変わるため、一律の目安を当てはめるのは難しいです。まずは自社の過去の回転率を基準にし、上がっているか下がっているかという「変化」を追うほうが実務的です。回転率が急に上がった場合は、欠品が増えていないかもあわせて確認してください。
Q. 安全在庫は、具体的にどう計算すればよいですか?
A. 簡易的な目安の出し方を一つご紹介します。「1日あたりの平均販売数」に、「リードタイムが遅れる可能性のある日数」を掛け合わせる方法です。たとえば1日平均3個売れる商品で、通常のリードタイムが5日、遅延時は最大10日かかるとします。差にあたる5日分、つまり15個程度が一つの目安です。よくある失敗は、平均値だけを見て、遅延の可能性を織り込まないことです。平均どおりに入荷する月は問題が出なくても、遅延が重なった月に一気に欠品してしまいます。
Q. すでに積み上がってしまった過剰在庫は、どう扱えばよいですか?
A. まずはABC分析の考え方で、どの商品が滞留の中心かを可視化することから始めます。そのうえで、セット販売や値下げ、アウトレット的な販路への切り替えなど、現金化を優先する打ち手を検討します。同時に、なぜその発注量になったのかを振り返り、次の発注ルールに反映しないと、同じ滞留を繰り返してしまいます。
Q. 一点ものの在庫は、専用のシステムが必要ですか?
A. 点数が少ないうちは、状態や付属品の情報を丁寧に記録できれば表計算ソフトでも運用できます。複数モールに同時出品する場合は、在庫が売れた瞬間に他の売り場へ反映される仕組みの有無が重要です。その反映速度を軸にツールを比較することをおすすめします。
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参考情報・出典
- 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」公表資料(2025年8月公表・2024年データ)
公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社(EC事業運営の現場より)
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