越境ECの多言語対応|翻訳とローカライズの違い・優先順位のつけ方

海外に商品を売ってみたい。そう思ったときに、多くの人がまず立ち止まる壁があります。「英語が得意じゃないのに、サイトを多言語化なんてできるのだろうか」という不安です。

この不安は、越境ECの多言語対応に踏み出せない理由として、よく挙がります。ただ、答えは「サイト全体を完璧な英語に翻訳する」ことではありません。必要なのは、購入を決めるお客さまが実際に見るページから優先順位をつけること。そこから「伝わる形」へ地道に直していく手順です。

この記事では、「翻訳」と「ローカライズ」という似て非なる二つの言葉の違いを整理します。そのうえで、言語・ページの優先順位、機械翻訳の頼れる範囲、サイズや単位といった見落としがちな落とし穴まで、実務の手順としてお伝えします。海外のお客さまへの問い合わせ対応の多言語運用にも触れます。

私たちラクフルは大阪・豊中でリユース・アパレルなどのEC事業を営みながら、越境ECへの本格参入を計画している立場です。同じように「英語が不安」という事業者に、実務者目線で寄り添いたいと思い、この記事を書いています。

この記事で分かること

  • 「翻訳」と「ローカライズ」の違いと、それぞれが担う役割
  • 何語から、サイトのどのページから多言語化に着手すべきかの優先順位
  • 機械翻訳をどこまで使ってよいか、人の手を必ず入れるべき場所
  • サイズ・単位・日付表記など、文化差でつまずきやすい落とし穴
  • 海外のお客さまからの問い合わせを、多言語でどう運用するか

多言語対応は、サイト全体を翻訳することではありません。購買判断と安心に関わる箇所から優先的に「伝わる形」へ直すこと。機械翻訳は下書きであり、最終的に伝わる責任を持つのは売り手の設計です。

なお、越境ECの全体像は、体系を1本にまとめる記事(今後公開予定)に譲ります。翻訳ではなくローカライズという発想そのものは、別記事「越境ECで選ばれる会社になるために、本当に必要なこと」で紹介済みです。この記事では、その先の「実際に何から手をつけるか」という実装の手順に絞ってお伝えします。

「英語ができないから」で、あきらめてしまっていいのか

越境EC参入をためらう理由として、語学力への不安はよく語られます。ただ、実態を見ると「英語が完璧な会社しか越境ECをしていない」わけではなさそうです。

JETROが2025年11月から12月にかけて実施した調査(2026年3月公表、3,369社回答)によると、国内外でECの利用経験がある日本企業は42.2%にのぼります。そのうち68.4%が海外向け販売でECを活用・検討しています。販売方法で最も多いのは越境EC(日本国内から海外への販売)の45.5%で、中小企業に限ると割合はさらに高い47.0%です。

つまり、越境EC参入は大企業の専売特許ではなく、中小企業でも「販売手法として越境ECを選ぶ」割合はむしろ高いという結果が出ています。語学の完璧さよりも「何から手をつけるか」という段取りのほうが重要です。実際には、それが参入の分かれ目になっているのではないかと私たちは見ています。

「翻訳」と「ローカライズ」は、何が違うのか

多言語対応の話をするとき、「翻訳」と「ローカライズ」は、しばしば同じ意味で使われます。ローカライズ(localization。現地化とも訳される)とは、対象の国・地域の文化や商習慣に合わせて、内容そのものを調整することです。ですが、この二つは役割がまったく違います。

翻訳は、ある言語の文章を別の言語に置き換える作業です。「これは綿100%のTシャツです」を英語にする、という言葉の変換がここに当たります。一方でローカライズは、言葉だけでなく内容そのものを組み替える作業です。通貨・サイズ表記・日付形式・支払い手段・法的な表示義務まで、その地域の商習慣に合わせて調整します。

たとえば「S・M・Lサイズ」という表記は、日本語を英語に訳しただけでは現地のお客さまには伝わりません。国や地域によってサイズ基準が異なるため、実寸(センチメートル)を併記するといったローカライズの工程が必要になります。翻訳だけを完璧にしても、ローカライズが抜けていれば「読めるけれど、選べない」ページになってしまいます。

何語から、どのページから始めるか

多言語対応でつまずきやすいのは、「サイト全体を一度に、完璧な形で」多言語化しようとすることです。実務としては、言語とページの両方に優先順位をつけて、段階的に進めるほうが無理がありません。

まずは言語の優先順位

経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査 報告書」(2025年8月26日公表)によると、2024年の日米中3カ国間の越境ECで、米国消費者による日本事業者からの越境EC購入額は1兆5,978億円でした。中国消費者による日本事業者からの購入額は2兆6,372億円(前年比8.5%増)です。日本の越境EC販売先として、英語圏・中国語圏の存在感は現時点でも大きいことがうかがえます。

とはいえ、この数字は「英語と中国語を優先せよ」という単純な答えを意味するわけではありません。自社の商材が誰に求められているか、すでに問い合わせが来ている国・地域はどこかを起点にするのが近道です。そこから、扱える言語を1つか2つに絞って着手します。全言語に手を広げるより、1言語をきちんと仕上げるほうが、結果として信頼につながります。

次にページの優先順位

ページの優先順位は、「情報を届けたいページ」ではなく「お客さまが購入を決める・不安を解消するページ」から考えます。優先度の目安を整理すると、次のようになります。

優先度 ページ・要素 理由
商品ページ(価格・サイズ・素材・在庫) 購入判断に直結する情報
配送・返品ポリシー、支払い方法 購入前の最大の不安要素
よくある質問(FAQ) 問い合わせを未然に減らせる
特定商取引法に基づく表示・プライバシーポリシー等の法的表示 信頼性の担保、地域によっては対応が必須
会社概要・ブログ・採用情報 購入判断への影響が小さい

法的表示については地域ごとに扱いが異なります。海外在住者のみに販売する越境ECの場合、日本の特定商取引法上の表示義務は基本的に及びません。これは同法第26条第1項第2号の適用除外によるものです(消費者庁 特定商取引法ガイド)。ただし、これは「何も書かなくてよい」という意味ではありません。販売先の国・地域の消費者保護法や表示ルールが、別途課される場合がある点には注意が必要です。

また、EU向けに販売する場合は注意が必要です。EUの一般データ保護規則(GDPR。2018年5月25日施行)は、EU域外の事業者にも適用されます(個人情報保護委員会)。そのため、個人データの取り扱いに関する記載は、対象言語を問わず必ず備えておく必要があります。「まだ売上が小さいから」と後回しにしていい項目ではありません。

機械翻訳を、どこまで頼っていいのか

DeepLやGoogle翻訳をはじめとする機械翻訳の精度は、年々上がっています。すべてを人手で翻訳する体力がない中小企業にとって、機械翻訳は現実的な選択肢です。ただし、「機械翻訳を使うかどうか」ではなく、「機械翻訳をどこで使い、どこで人の目を必ず入れるか」という線引きが実務では重要になります。

私たちは、AIに任せる仕事と人が守る仕事を分けて考えるという判断軸を、別記事「AIに任せる仕事、人が守る仕事」で紹介しました。多言語対応にも、同じ考え方がそのまま当てはまります。

  • 機械翻訳を下書きとして使ってよい範囲: 商品説明の初稿、FAQの下訳、社内向けの海外顧客メールの内容把握
  • 必ず人の目を入れる範囲: 価格・数量・サイズなどの数字、返品条件や保証に関わる文言、否定表現(「〜できません」の意味が反転していないか)、固有名詞や商品名の表記
  • 機械翻訳に向かない範囲: 法的な表示義務のある文言、ブランドの世界観を伝えるキャッチコピー

機械翻訳がつくった文章をそのまま公開してしまうと、数字の誤変換や不自然な否定表現に気づかないまま、お客さまに届いてしまうことがあります。最終責任は機械ではなく、売り手である私たちの側にある。この前提を忘れないことが、機械翻訳と上手に付き合う一番のコツだと考えています。

サイズ・単位・文化差という落とし穴

言葉が正しく訳せていても、単位や表記の違いに気づかず、お客さまの誤解を招いてしまうケースは少なくありません。多言語対応と合わせて必ず確認しておきたい項目を、チェックリストとして整理します。

  • サイズ表記: S・M・Lだけでなく、実寸(センチメートル)を併記する。国・地域ごとにサイズ基準が異なるため、換算表があるとより親切
  • 重さ・長さの単位: グラム・キログラム・センチメートルに加えて、対象地域で使われる単位(ポンド・インチ等)も併記できないか検討する
  • 日付表記: 「2026年7月13日」のような表記は地域によって「月/日/年」「日/月/年」の順序が異なるため、誤読を避けるには月名を文字で書く、または年月日を明記する
  • 小数点とカンマ: 数字の桁区切り(カンマ)と小数点(ピリオド)は地域によって使い方が逆転する場合がある
  • 通貨表記: 現地通貨での価格表示があるか、為替レートの前提時点を明記しているか
  • 色や図像の受け取られ方: 色や柄が持つ印象は文化によって異なる場合があるため、主力商材で気になる点がないか事前に確認する

どれも地味な作業です。それでも、こうした細部の積み重ねが「この店は、ちゃんと自分たちのために準備してくれている」という安心につながります。翻訳の巧拙以上に、こうした配慮のほうがお客さまに伝わることもあります。

問い合わせ対応を、多言語でどう回すか

商品ページを多言語化できても、購入後の問い合わせに対応できなければ、お客さまの不安は解消されません。とはいえ、多言語のカスタマーサポート専門チームを最初から持てる中小企業は多くないはずです。

無理のない進め方は、まずFAQページを充実させて、問い合わせそのものを減らすことです。そのうえで、よくある質問への定型の返信テンプレートを多言語で用意しておきます。テンプレートで対応できない個別の相談は、機械翻訳を補助に使いながら人が内容を確認して返信する、という二段構えです。返信までに時間がかかる場合は、その旨を先に一言伝えるだけでも、お客さまの不安は大きく和らぎます。

今後ラクフルが実践していくこと

私たちはまだ、越境ECを本格的に手がけ始めたばかりの立場です。だからこそ、これから実践していきたいことを、正直にお伝えします。

  • 優先言語・優先ページの見極め: 英語圏・中国語圏の存在感を参考にしつつ、商材への関心が高い地域を見ながら、整えるべき言語とページを絞り込んでいきます。
  • 機械翻訳と人手チェックの役割分担の明文化: どこまで機械に任せ、どこから人が確認するかの線引きを、社内のルールとして言語化していきます。
  • サイズ・単位換算表の整備: リユース・アパレルの商品ページで使える、実寸ベースの換算表を用意していきます。サイズ差が伝わりにくいアパレルから優先します。
  • 問い合わせテンプレートの多言語化: よくある質問への定型返信を、対応言語ごとに準備していきます。

どれも、いきなり完成させられるものではありません。それでも、一つずつ手順を積み上げていけば、語学に自信がなくても、越境ECの入口には立てると考えています。

まとめ:完璧な翻訳より、伝わる設計を

越境ECの多言語対応は、サイト全体を美しい英語に訳し切ることが目的ではありません。お客さまが購入を決め、安心して受け取るために必要な情報から、優先順位をつけて「伝わる形」に整えていく作業です。

翻訳とローカライズを区別し、機械翻訳を下書きとして活用しながら人の目で数字と法的表示を守る。サイズや単位といった細部にも気を配る。この積み重ねが、語学に自信がなくても越境ECの一歩目を軽くしてくれます。私たちも、その一歩目を一緒に踏み出していく立場として、これからも実践を重ねていきます。

よくある質問

Q. サイト全体を多言語化しないと、越境ECは始められませんか?

A. いいえ。まずは商品ページ・配送や返品のポリシー・よくある質問など、購入判断に直結する部分から着手すれば十分です。会社概要やブログのような、購入判断に影響しにくいページは後回しにしても大きな問題はありません。

Q. 機械翻訳だけで越境ECを始めても大丈夫ですか?

A. 下書きとしては有効です。ただし、価格やサイズなどの数字、返品条件のような法的・金銭的な意味を持つ文言は、必ず人の目で確認してから公開することをおすすめします。誤変換や不自然な否定表現に気づかないまま公開してしまうリスクがあるためです。

Q. 何語から手をつけるべきですか?

A. 決まった正解はありません。すでに届いている問い合わせの国・地域や、商材への関心が高そうな地域を手がかりに、1つか2つの言語から始めるとよいでしょう。中途半端に手を広げるより、そのほうが信頼につながりやすいはずです。

Q. 海外からの問い合わせには、必ず現地語で対応しないといけませんか?

A. 理想ではありますが、完璧である必要はありません。まずはFAQを充実させて問い合わせ自体を減らし、届いた問い合わせにはテンプレート返信と機械翻訳の補助を組み合わせて対応する形で十分です。返信に時間がかかる場合は、その旨を先に伝えるだけでも安心感が変わります。

Q. 特定商取引法などの法的な表記は、多言語化する必要がありますか?

A. 海外在住者のみに販売する越境ECは、日本の特定商取引法上の表示義務が適用除外となる場合があります。ただし、販売先の国・地域の法律が別途適用されることがあります。またEU向けに販売する場合はGDPRが適用されるため、個人データの取り扱いに関する記載は言語を問わず必ず備えておく必要があります。

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公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社

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