クレームの電話を切ったあと、受話器の向こうのお客様に「なんだか、この会社をまた使いたいな」と思ってもらえたら——それはきっと、どんな広告よりも確かな、事業の財産です。この記事は、ECの問い合わせ・CS(カスタマーサポート=お客様対応の窓口)の品質が、会社の評判やリピートにどうつながるのかを知りたいEC担当者・CS担当者・同業のみなさん、そして「商品ではなく、人柄で会社を選びたい」と考える方へ向けて書きました。結論から言います。私たちラクフルは、顧客対応を「コスト」ではなく、一件ずつ静かに積み上がっていく「ブランド資産」だと考えています。大阪・豊中の現場で、その理由と実践を、飾らず等身大にお話しします。
顧客対応を『コスト』と見た瞬間に、失うもの
EC運営をしていると、問い合わせ対応・返品対応・クレーム対応が、どうしても「手間」に見えてしまう瞬間があります。売上を生まない時間、人件費のかかる時間、できれば減らしたい件数——そう数えはじめると、顧客対応は「削るべきコスト」に見えてきます。正直、私たちも忙しい日にはそう感じかけることがあります。
でも、ここに深い落とし穴があると私たちは考えています。顧客対応を「コスト」として扱った瞬間、その対応は「いかに早く・安く終わらせるか」を目指すものに変わってしまう。心の通わない定型文、たらい回し、要点だけの冷たい返信。お客様は、それを驚くほど正確に見抜きます。そして、何も言わずに、静かに離れていきます。
ECは、モール(楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングなど)に並ぶ無数の商品のなかから、お客様が「ここで買おう」と選んでくださって、はじめて成立します。同じ商品を売るお店は、画面の中に他にもたくさんある。だからこそ、最後に会社と会社を分けるのは、買ったあとに届く一通のメールであり、電話口でこぼれる一言だったりします。商品では差がつかない時代に、いちばん差がつくのが「対応」なのです。
顧客対応を「コスト」と見た瞬間に失うのは、目先の数分ではありません。もう一度選んでもらえたかもしれない未来。口コミで静かに広がったかもしれない評判。その方の家族や友人にまで届いたかもしれない信頼。その一件を軽く扱うことで消えていくのは、目に見えない、けれどいちばん大きな未来のほうです。
対応の一つひとつが、静かにブランドを積み上げる
では、顧客対応を「資産」として捉えなおすと、何が変わるのか。
資産とは、時間をかけて積み上がり、あとからじわりと効いてくるものです。丁寧な一件の対応は、その日の売上には表れません。けれど、その方がリピーターになり、レビューに一言を書き添え、誰かに「あそこ、対応が気持ちよかったよ」と伝えてくれる。その連鎖は、広告費では決して買えない信頼として、会社にゆっくりと蓄積されていきます。
顧客対応は、支払って終わるコストではありません。一件ずつ、静かに積み上がっていく——それは、消えないブランド資産です。
コストと見る会社と、資産と見る会社。両者は、同じ一件の問い合わせを、まったく違う目で見ています。
| 見方 | 顧客対応を「コスト」と見る会社 | 顧客対応を「資産」と見る会社 |
|---|---|---|
| 対応の目的 | いかに早く・安く終わらせるか | 関係をどう深められるか |
| 使う言葉 | 定型文中心・事務的 | その人に向けた、体温のある言葉 |
| クレームの扱い | 減らすべきトラブル | 信頼を取り戻すチャンス |
| 見ている時間軸 | いまの1件の処理コスト | これから続く関係と、その先の評判 |
| 半年後に残るもの | こなした「処理件数」だけ | リピート・口コミ・ブランド |
コストと見るか、資産と見るか。この立ち位置ひとつの違いが、半年後・一年後の会社の姿を、静かに、でも確実に変えていく——私たちはそう考えています。
問い合わせ・返品・クレームは、関係を深めるチャンス
正直に打ち明けると、返品やクレームの連絡が入ると、現場の心は一瞬ざわつきます。それは、まじめに向き合っている証でもあり、自然なことです。でも私たちは、そこを意識してこう捉えなおすようにしています——お客様がわざわざ時間を割いて声をあげてくださった、その瞬間こそ、関係を深める入り口だと。
不満を感じたお客様の多くは、何も言わず、黙って去っていきます。声をあげてくださる方は、まだ心のどこかで「もう一度、期待したい」と思ってくださっている。その期待に、誠実に・すばやく・あたたかく応えられたとき、対応する前よりも強い信頼が生まれることがあります。ときには、クレームをくださった方が、いちばんのファンになってくださることさえある。
問い合わせ・返品・クレームが、関係を深めるチャンスへと変わっていく流れを、図にしてみました。
【きっかけ】 【対応の姿勢】 【積み上がるもの】
問い合わせ ──▶ すばやく・わかりやすく ──▶ 「ここは頼れる」という安心
一言そえて答える
返品の連絡 ──▶ 責めず・手間を最小に ──▶ 「またここで買おう」という納得
気持ちよく受ける
クレーム ──▶ まず謝意と共感、 ──▶ 対応前より強い信頼・ファン化
そして誠実な解決
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一件ずつ、静かにブランド資産が積み上がる
もちろん、いつも理想どおりにいくわけではありません。言葉がうまく伝わらず、悔しい思いをして一日を終える日もあります。それでも「この一件を、関係を深める入り口にできないか」と問い続けること。その姿勢こそが、私たちの対応の、いちばん底にある土台です。
外の知見に学ぶ——お客様に執着するという姿勢
顧客対応を語るとき、よく引き合いに出されるのが、世界的なEC企業が掲げてきた「カスタマーオブセッション」という考え方です。むずかしく聞こえますが、ほどいてしまえばシンプルで、「競合ではなく、お客様に執着する(とことん向き合う)ことを、すべての起点にする」という姿勢のことです。
売上や競合の動きから逆算して手を打つのではなく、「お客様は本当は何に困っているのか」「どうすれば、もっと気持ちよく使ってもらえるのか」から考えはじめる。その積み重ねが、結果として長く選ばれる会社をつくっていく——そういう知見です。
これは、なにも巨大企業だけのものではないと私たちは思っています。むしろ、社員33名(パート・アルバイト含む)の私たちのような規模だからこそ、一人ひとりのお客様の顔を思い浮かべながら対応できる。大きな会社が仕組みで効率を追う一方で、私たちは「顔の見える距離」で向き合える。そこにこそ、小さな会社の勝ち筋があると考えています。
カスタマーオブセッションを、豊中の温度で実践する
大切なのは、こうした知見を「へえ、すごい会社があるものだ」で終わらせないことです。私たちは、これを豊中の現場の温度に翻訳して、実践していきたいと考えています。
たとえば、リユース商材(本・CD・DVD・ゲーム・おもちゃ・家電など)を扱うとき、状態の説明を一行ていねいに書き添えるだけで、届いたときの「思っていたのと違う」を、ぐっと減らせます。それは、返品を減らすための小手先のテクニックではありません。「お客様に、がっかりしてほしくない」——その気持ちが、文章のかたちになったものです。お客様に執着するとは、私たちにとって、そういう地味で、あたたかい一手の積み重ねなのだと思っています。
ラクフルとしての仮説——対応の温度は、仕組みでも守れる
ここで、私たちがこれから検証し、実践していきたい仮説をお話しします。それは、**「対応のあたたかさは、個人のがんばりだけに頼らなくても、仕組みで守れる」**という仮説です。
「人の温度」と聞くと、対応の上手な誰か一人の才能のように思えるかもしれません。でも、担当者の体調やその日の忙しさで対応品質が上下してしまう会社は、お客様から見れば「あたりはずれのある会社」です。あの人にあたればいいけれど、そうでなければ冷たい——それでは、信頼は積み上がりません。誰が対応しても一定以上のあたたかさが届く。そこまで到達して、はじめて「ブランド」と呼べるのだと私たちは考えています。
だからこそ大事にしたいのが「再現性」です。よい対応を、たまたまではなく、いつでも・誰でも再現できる状態にしていく。これは、私たちがEC運営全体で大切にしている考え方でもあります(詳しくは #3「『たまたま売れた』を、なくす。」でもお話ししています)。
そして、その再現性を支えるうえで、これからのEC企業に欠かせないのがAIや自動化の活用です。ただし——ここが私たちのいちばんのこだわりなのですが——AIに任せるのは「速さ」や「もれのなさ」であって、「心」ではありません。お客様の気持ちに寄り添う最後の一言、頭を下げるべき場面で下げる判断は、人が守る。この線引きを、私たちは丁寧に磨いていきたいと考えています。
顧客対応の温度を守るための、「AIの効率化」と「人の判断」の役割分担を、こう整理しています。
| 役割 | AI・自動化にまかせたいこと | 人が守りたいこと |
|---|---|---|
| スピード | よくある質問への即答、定型案内の下書き | 「この人には、この言い方」の最終調整 |
| もれ防止 | 未対応・遅延の検知、対応履歴の整理 | 謝るべき場面を、自分の言葉で謝る判断 |
| 負担軽減 | 単純作業の肩代わり、必要情報の集約 | 相手の背景をくみ取り、寄り添う一言 |
| 品質の安定 | 対応のばらつきを見つけて知らせる | あたたかさが本当に届いたかの最終確認 |
AIで手が空いたぶん、人は「人にしかできないこと」に、より多くの時間を使える。効率化は、温度を削るためではなく、温度を守るためにある。私たちはそう信じています。この考え方は、AIと人の役割分担について書いた #10「AIに任せる仕事、人が守る仕事」にも通じています。
今後ラクフルが実践していくこと
私たちは、顧客対応を「人の温度を届ける場」として磨いていくために、これから次のことを実践していきます。断定できる完成形ではなく、日々試行錯誤しながら積み上げていく約束として、ここに書き残します。
- 返信の「速さ」と「あたたかさ」を両立する設計:AIや自動化でよくある問い合わせの下書き・即答を支えつつ、最後はかならず人の目で「この人への一言」を添える。速さのために温度を捨てない対応を、かたちにしていきます。
- 返品・クレームを学びに変える仕組みづくり:一件ずつを「処理」で終わらせず、なぜ起きたのかを商品説明や運営に還元し、同じがっかりをくり返さない——再現性のある運営を実践していきます。
- 越境ECでも通用する対応品質の準備:海外のお客様にも日本製品の信頼を届けられるよう、言葉や文化の壁をこえて伝わる対応のかたちを、対応するモールを広げながら整えていく計画です。
- 仲間が気持ちよく対応できる環境づくり:あたたかい対応は、まず対応する仲間自身が大切にされてこそ生まれます。子育て世代も多い私たちだからこそ、無理なく・気持ちよく働ける環境を整え、それをそのままお客様への温度につなげていきます。
- データからお客様の気持ちに近づく:問い合わせの傾向を数字で捉え、「困りごとの芽」を先回りでなくしていく取り組みを深めていきます(考え方は #9「データは、冷たくない。」に通じます)。
どれも、一気にできることではありません。でも、一つひとつ、豊中の現場から着実に積み上げていきます。
まとめ:いい会社は、いい顧客対応の積み重ねでできている
華やかな新商品や、大きなキャンペーンだけが、会社をつくるのではありません。むしろ、目立たない一通のメール、電話口のやわらかな一言、返品を気持ちよく受けとめた一件——そうした小さな対応の積み重ねが、静かに、でも確実に「いい会社」をかたちづくっていくのだと、私たちは信じています。
顧客対応は、コストセンター(お金を使うだけの部署)ではありません。リピートを生み、口コミを広げ、まだ見ぬ誰かの信頼にまでつながっていく、消えないブランド資産です。だからこそ私たちラクフルは、対応の一件一件を「人の温度」を届ける場と捉え、これからも磨き続けていきます。
インターネットを通じて、人々の生活に彩りと艶と輝きをもたらす——私たちのミッションは、実は、こうした地味であたたかい一件の対応のなかにこそ、いちばん素直に宿るのかもしれません。大阪・豊中から、画面の向こうにいるあなたの一日を、ほんの少しだけ明るくできますように。
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▶ 働き方の背景は「『子どものお迎えがあるので』と、堂々と言える会社へ。|ラクフルの働き方」もあわせてどうぞ。
▶ 越境ECへの本気は「越境ECで選ばれる会社になるために、本当に必要なこと」でお話ししています。
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