「便利そうだから使っていいよ」と言ったきり、ルールを決めていない。そんな会社は、決して少なくないはずです。生成AIは、誰でもすぐに使い始められる道具です。だからこそ、何を入力してよくて、出てきた答えをどこまで信じていいのか。その線引きが曖昧なまま、現場に広がりやすい面もあります。
私たちラクフルも、生成AIを業務でどう活かせるか、検討を始めています。複数の事業を抱える会社だからこそ、便利さの裏にあるリスクを自分たちの宿題として整理しておきたいと思いました。この記事は、その過程で調べたことをまとめたものです。あなたの会社では、線引きはもう決まっていますか。
結論から言うと、禁止事項を並べるだけでは現場は動きません。まず決めるべきは「入力してよい情報の線引き」「確認の責任者」「使ってよい用途」の3つです。この記事では、この3つを軸に、生成AIの何が心配されているのか、国がどんな物差しを示しているのかを、順番に見ていきます。
この記事で分かること
- 生成AIの利用で心配されている「情報漏洩」「誤情報(ハルシネーション)」「著作権」という3つのリスクの中身
- 国が示す「AI事業者ガイドライン」や、個人情報保護委員会・文化庁の考え方の要点
- 中小企業が最初に決めるべき社内ルールは3つだけでいいという考え方
- 「入力してよい情報の線引き」「確認の責任者」「使ってよい用途」を、それぞれどう決めるか
- 専任のAI担当者がいない会社でも、今日から着手できる進め方
「使っていいのか、迷ったまま」を、そのままにしない
生成AIを巡る社内の空気は、会社によって驚くほど違います。積極的に使う人がいる一方で、怖くて触れない人もいます。禁止するでもなく推奨するでもなく、なんとなく現場任せになっている会社が、実はいちばん多いのではないでしょうか。
東京商工リサーチが2025年7月30日から8月6日にかけて調査を行いました(回答6,645社、同年8月18日公表)。生成AIの活用を組織的に推進していると答えた企業は、全体の25.2%にとどまりました。企業規模で見ると、大企業は43.3%だったのに対し、中小企業は23.4%です。両者には約20ポイントの開きがあります。活用を推進しない理由としては「推進するための専門人材がいない」が55.1%で最も多くなっています。次いで「利点・欠点を評価できない」が43.8%で続きました。
この数字が示しているのは、中小企業が生成AIに後ろ向きだということではありません。評価する専門人材がいないまま、判断を先送りにしている会社が多いということです。専任のAI担当者を置ける会社は限られます。それでも、判断を先送りにするより、小さくてもルールを先に決めるほうが、現場は安心して一歩を前に進められます。
生成AIの何が心配なのか——情報漏洩・誤情報・著作権の3つ
「生成AIは危ない」という漠然とした不安の中身を分解すると、大きく3つのリスクに整理できます。
| リスクの種類 | 具体的に何が起きるか |
|---|---|
| 情報漏洩 | 入力した顧客情報や社外秘の情報が、サービス提供者側の学習データ等として扱われ、意図せず外部へ流出する可能性がある |
| 誤情報(ハルシネーション) | 生成AIが事実と異なる内容を、もっともらしい文章で自信満々に答えてしまい、確認せずに使うと誤りがそのまま社外へ出てしまう |
| 著作権 | 生成AIが既存の著作物と似た文章・画像を作ってしまったり、他者の著作物を無断で学習・出力に使ってしまったりする可能性がある |
この3つは、それぞれ別の担当領域に見えます。でも、実は根っこは同じです。「何を入力し、何を確認し、何に使うか」という手前の判断が曖昧なままだと、どのリスクも防ぎようがありません。だからこそ社内ルールは、リスクごとに個別対応するべきではありません。この手前の判断を先に決める形で作るのが、いちばん実務的だと私たちは考えています。AIにどこまで任せ、どこから先は人が担うべきか。この線引きは、別記事「AIに任せる仕事、人が守る仕事」でも詳しく取り上げています。あわせてご覧ください。
国が示す物差し——AI事業者ガイドラインとは
個々の会社がゼロからルールを考える必要はありません。国はすでに、AIに関わるすべての立場に向けた指針を示しています。
総務省・経済産業省は2024年4月19日、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を公表しました。これは、それまで別々に存在していたAI開発・利活用に関する複数のガイドラインを整理・統合したものです。AIを開発する事業者、AIを使ったサービスを提供する事業者、AIを利用する事業者。それぞれの立場に向けて、具体的な行動指針を示しています。その後もガイドラインの更新は続いています。2025年3月28日に第1.1版、2026年3月31日には第1.2版が公表されました。この記事の公開時点(2026年7月)では、第1.2版が最新の版になります。
ガイドラインが繰り返し強調しているのは「人間中心」の考え方です。AIに判断のすべてを委ねるのではなく、最終的な確認と責任は人が持つ。この姿勢が、開発者・提供者・利用者のどの立場にも共通して求められています。この考え方は、私たちが後述する「確認の責任者を決める」というルールの土台にもなっています。
個人情報保護委員会が、繰り返し注意を促していること
情報漏洩のリスクについては、個人情報保護委員会が早い段階から注意を呼びかけています。同委員会は2023年6月2日、「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表しました。
この注意喚起の核心はシンプルです。生成AIサービスに入力した個人データや保有個人情報は、サービス提供者側の学習データ等として利用されることがあります。その可能性がある、という点です。同時に、ChatGPTを提供するOpenAI社に対しても、個人情報の取得・利用に関する注意喚起が行われました。個別の生成AIサービス提供事業者を名指しした注意喚起は珍しく、当時の懸念の大きさがうかがえます。
ここで大切なのは「生成AIに個人情報を入力してはいけない」という単純な話ではない、ということです。業務でお客様の氏名や連絡先を扱う場面は、日常的にあります。問題は、入力してよい情報とそうでない情報の線引きが、現場の一人ひとりの判断に委ねられてしまっていることにあります。線引きを会社としてあらかじめ決めておくと、現場の不安はかなり軽くなるはずです。
著作権はどう考えればいいのか——文化庁の考え方
もう一つの不安は著作権です。生成AIが作った文章や画像を、業務でそのまま使ってよいのか。この疑問は、多くの現場で共有されています。
文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は2024年3月15日、報告書を取りまとめました。タイトルは「AIと著作権に関する考え方について」です。この文書に法的な拘束力はありません。あくまで現時点での考え方の整理という位置づけです。それでも、この文書には大きな意味があります。AI開発・学習段階での著作物の扱いと、生成・利用段階での著作権侵害の考え方を、行政として初めて体系的に示したからです。実務上の重要な参照点になっています。
この文書が示す考え方を、ひとことでまとめるとこうなります。既存の著作物に似た作品を生成AIで作り、それを利用する行為があるとします。人が同じことをした場合と同様に、著作権侵害になり得る、というものです。生成AIが作ったから免責される、という話ではありません。だからこそ、生成物を対外的に使う前に、人の目で確認する工程が欠かせないのです。
社内ルールは、まず3つだけ決めればいい
ここまで見てきた3つのリスクは、どれも「何を入力し、誰が確認し、何に使うか」という手前の判断に集約されます。ルールを作るときも、細かい禁止事項を並べる前に、まずこの3つを決めることをお勧めします。あなたの会社でも、この3つから始めてみませんか。
| 決めること | 具体的な中身 | ねらい |
|---|---|---|
| 入力してよい情報の線引き | 顧客の個人情報・取引先の非公開情報・未公開の社内数値などを「入力しない情報」として明示する | 情報漏洩リスクを未然に防ぐ |
| 確認の責任者 | 生成AIの回答・生成物を対外的に使う前に、誰が事実確認・著作権確認を行うかを決める | 誤情報や著作権侵害を社外に出さない |
| 使ってよい用途 | 下書き作成・要約・アイデア出しなど「まず使ってよい用途」を先に決め、判断が難しい用途は個別相談にする | 現場が萎縮せず使える範囲を明確にする |
一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)は2023年5月、ひな形を公開しました。それが「生成AIの利用ガイドライン」です。企業が自社の利用ガイドラインを作る際の土台として使える内容です。同年10月には内容を更新した第1.1版も公開されています。ゼロから文章を書き起こす必要はありません。こうした公開されているひな形に自社の実情を反映させていく進め方が、現実的だと私たちは考えています。ルールを仕組みとして根づかせる考え方は、「『たまたま売れた』を、なくす。」で紹介している私たちの『再現性』というバリューにも通じるところがあります。
この3つが決まっていれば、細かい用途ごとの判断は現場に委ねられます。ルールは現場を縛るためではありません。現場が安心して手を動かし、わくわくしながら新しい工夫をつくれるようにするためにあります。
私たちがこれから実践していくこと
ラクフルは、国内EC・アパレル・リユースなど複数事業を営む会社です。AI・データ活用は、私たちがこれから本気で向き合っていきたいテーマのひとつです。商品説明文の下書きや需要予測など、生成AIを業務に取り入れられそうな場面は、日々の仕事の中にいくつも見えています。
実際に、アパレル事業の商品説明文づくりで、生成AIに下書きを作らせてみたことがあります。商品名や状態を入力すると、文章のたたき台はすぐに出てきました。ただ、サイズ感の伝え方やブランドらしい言い回しまでは、結局のところ人の目で書き直す部分がかなり残りました。便利さと、確認の手間。その両方を実感した、私たちにとっての小さな挑戦でした。
その一方で、ここまで整理してきたリスクと無縁ではいられません。社員33名という規模で、私たちは複数事業を並行運営しています。専任のAI担当者を置く余裕は、簡単には作れないのが実情です。だからこそ、まずは「入力してよい情報の線引き」と「確認の責任者」から始めます。既存のガイドラインを土台にしながら、少しずつ形にしていく段階にあります。生成AIを使った具体的な文章作成の実務については、別記事で改めて詳しく解説する予定です。AI・データ活用の広がりは、私たちが描く「今後の展開」のひとつでもあります。
完璧なルールを最初から作ろうとすると、着手そのものが遅れます。私たちも、走りながら見直していくつもりです。仲間と一緒に、立ち止まらずに小さく始めようとしています。
まとめ:ルールは、AIを制限するためではなく安心して使うためにある
生成AIの利用に対する不安の多くは、情報漏洩・誤情報・著作権という3つに整理できます。国はすでにAI事業者ガイドラインや個人情報保護委員会の注意喚起、文化庁の考え方という形で、判断の物差しを示しています。
中小企業がゼロからルールを考える必要はありません。既存のガイドラインを土台に、まず「入力してよい情報の線引き」「確認の責任者」「使ってよい用途」の3つだけを決める。それだけで、現場は迷わずAIと向き合えるようになります。私たちも、この3つから始めました。あなたの会社も、今日、ここから一緒に踏み出してみませんか。
よくある質問
Q. 生成AIに誤って個人情報や社外秘の情報を入力してしまいました。どうすればいいですか?
A. まずは社内の責任者へ速やかに報告し、事実関係を記録することが大切です。サービスによっては入力データの学習利用を停止する設定や、削除を申請できる窓口が用意されている場合があります。個人情報保護委員会も、入力した個人データがサービス提供者側の学習データ等として利用される可能性を注意喚起しています。日頃から「入力してよい情報の線引き」を決めておけば、こうした事態はそもそも起きにくくなります。
Q. 生成AIの回答は、そのまま業務で使っても大丈夫ですか?
A. 生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしく作り出す「ハルシネーション」を起こすことがあります。対外的に使う文章や数値は、必ず人の目で事実確認をしてから使うことをお勧めします。社内ルールで「確認の責任者」を決めておくと、この確認作業が担当者任せにならず、抜け漏れを防げます。
Q. 生成AIで作った文章や画像は、誰の著作物になりますか?
A. 文化庁が2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表しました。そこでは、既存の著作物に似た生成物を利用する行為について書かれています。人が同様の行為をした場合と同じように、著作権侵害になり得るとされています。生成AIが作ったからといって免責されるわけではありません。対外的に使う前に、類似性の確認を行う工程を挟むことが望ましいです。
Q. 専任のAI担当者がいない中小企業でも、社内ルールは作れますか?
A. 作れます。一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)などが、利用ガイドラインのひな形を無償で公開しています。企業が自社ルールを作る際の土台として使える内容です。ゼロから作るのではなく、こうした公開資料に自社の実情を反映させる形で始めるのが現実的です。完璧を目指す必要はありません。まず「入力してよい情報の線引き」「確認の責任者」「使ってよい用途」という3つの決めごとから着手することをお勧めします。
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参考情報・出典
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめました(2024年4月公表)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月公表・現行版)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月公表)
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月公表)
- 東京商工リサーチ「『生成AI』活用は企業の25%にとどまる」(2025年8月公表)
- 一般社団法人日本ディープラーニング協会「生成AIの利用ガイドライン」公開(2023年5月公開・同年10月第1.1版公開)
公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社
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