ECの利益構造を分解する|売上と利益はなぜ一致しないのか

「先月は過去最高の売上だったのに、通帳を見たら思ったほどお金が増えていない」。EC運営に携わっていると、一度はこの違和感にぶつかります。売上のグラフは右肩上がりなのに、手元の現金は思うように増えない。原因不明のまま広告費を増やし、さらに忙しくなる。それでも利益は増えない。そんな悪循環に、心当たりのある方も多いはずです。私たちも、日々の運営のなかで同じ壁にぶつかってきました。

結論からお伝えすると、売上と利益が一致しないのは、あいだに「見えにくいコスト」がいくつも挟まっているからです。手数料・送料・梱包資材・広告費・人件費——これらが積み重なって、売上を静かに削っていきます。そしてこの構造は、売れてから悩むのではなく、商品を出品する前に設計しておくべきものです。

この記事では、EC事業の利益構造をコストの種類ごとに分解し、どこから見直せば効果が大きいのか、優先順位のつけ方まで整理します。私たちラクフルは、大阪・豊中でリユースEC・アパレルECを含む複数事業を運営しています。ここでは自社の実績数値ではなく、EC事業者に共通する構造の話として、等身大にお読みいただければと思います。

似たテーマの記事にデータは、冷たくない。|数字からお客様の気持ちに近づくEC分析論があります。あちらが「お客様を知るための数字」だとすれば、この記事は「事業を守るための数字」の話です。

この記事で分かること

  • 売上と利益(手元に残るお金)がなぜ一致しないのか、その構造
  • EC事業の利益を圧迫する主なコストの種類と、それぞれの考え方
  • 粗利・営業利益といった指標の違いと、見るべき順番
  • 出品前に採算を設計する「コスト分解フレーム」の作り方
  • 利益改善に着手するときの、正しい優先順位のつけ方

「売れているのに、お金が残らない」の正体

この違和感の正体は、たいてい「売上」という一つの数字だけを見て事業の調子を判断していることにあります。売上は、お客様が支払った金額の合計にすぎません。そこから商品の仕入れ・製造原価、販売手数料、送料、梱包資材費、広告費、人件費といったコストが一つずつ差し引かれます。そうして、ようやく手元に残る利益が確定するのです。

とくにEC事業は、実店舗に比べてコストの種類が多いという特徴があります。モールに出店すれば販売手数料がかかり、商品を届けるには送料がかかり、集客のために広告費もかかります。しかも近年は、物流コストの上昇という向かい風も吹いています。

経済産業省の「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)によると、2024年の国内BtoC物販系EC市場規模は15兆2,194億円(前年比3.70%増)。EC化率も9.78%(前年比0.40ポイント増)と、市場そのものは拡大を続けています。

市場が伸びているということは、それだけ出店者間の競争も激しくなっているということです。値下げや広告出稿で売上を作ることはできても、その分利益が薄くなっていないかを、常に確認する必要があります。

厄介なのは、これらのコストの多くが「注文が入った後に」初めて金額が確定するという点です。販売手数料は決済確定時に、送料は配送業者への引き渡し時に、はじめて正確な数字が見えてきます。売上を先に数えて、コストは後からまとめて把握する。この順番のまま運営を続けていると、月末になって初めて「今月は利益が薄かった」と気づくことになります。順番を逆にして、価格を決める段階でコストを見積もっておく。これが、本記事で繰り返し立ち戻る出発点です。

売上と利益はなぜ一致しないのか——基本の整理

まずは言葉の整理から始めましょう。「売上」「粗利(売上総利益)」「営業利益」は、似ているようで指しているものがまったく違います。

指標 意味 計算の考え方
売上高 お客様が支払った金額の合計 販売価格 × 販売数
粗利(売上総利益) 売上から仕入・製造原価を引いた利益 売上高 - 原価
営業利益 本業の活動でどれだけ残ったか 粗利 - 販売手数料・送料・広告費・人件費などの営業費用

EC事業でとくに見落とされがちなのが、粗利と営業利益の間にある「販売手数料・送料・広告費・人件費」という営業費用のかたまりです。原価計算だけをして満足してしまうと、この部分がまるごと抜け落ちてしまいます。実際には利益が出ていないのに、「粗利は十分ある」と錯覚してしまうのです。売上と利益が一致しないのは、この営業費用の存在を見落としているか、把握はしていても金額を過小評価しているケースがほとんどです。

EC利益を圧迫する5つのコスト

次に、営業費用の中身を一つずつ見ていきます。EC事業の利益を圧迫する主なコストは、大きく5つに分けられます。

1. 販売手数料

モールに出店する場合、売上に対して一定率の販売手数料がかかります。手数料率はモールやカテゴリー、契約プランによって幅があり、同じ商品でも出店先が変われば手残りが変わります。複数モールに出品している事業者ほど、モールごとの手数料差を把握したうえで、価格設定に織り込んでおく必要があります。

2. 送料・物流コスト

送料は商品のサイズ・重量・配送地域によって変わるうえに、燃料費や人件費の上昇を受けて値上げが続いている領域です。政府の「物流革新緊急パッケージ」(我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議、2023年10月6日決定)は、ある試算を示しています。何も対策を講じなければ、輸送力不足は2024年度に14%、2030年度には34%に達する可能性があるというものです。いわゆる「物流の2024年問題」です。送料は今後も上昇を続ける前提で、コスト構造に組み込んでおくのが安全です。

3. 梱包資材費

段ボール・緩衝材・テープといった資材費は一点あたりの金額こそ小さいものの、出荷点数が増えるほど積み上がっていきます。過剰な包装は送料区分を押し上げ、逆に簡素すぎる梱包は破損・返品につながり、結局はコストとして跳ね返ってきます。商品保護とコストのバランスを取る「設計業務」として捉える視点が欠かせません。

4. 広告費・販促費

モール内広告やSNS広告は、短期的に売上を押し上げる手段としてよく使われます。ただし広告費は売上に対する比率で見なければ意味がありません。広告経由で獲得した売上が、広告費・手数料・送料を差し引いてもなお利益を残せているか。「売れているのに残らない」の多くは、この広告費の効果測定が甘いまま出稿を続けているケースです。

5. 人件費・バックオフィスコスト

受注処理・検品・梱包・出荷・カスタマー対応といった作業には、当然ながら人の時間がかかります。売上が増えるほど作業量も増え、人件費も比例して増加します。ここを「固定費だから」と見過ごしていると、規模が大きくなるほど、じわじわ利益を圧迫していきます。

ここまでの5つのコストを図にすると、売上という一つの数字の裏側で、どれだけの引き算が行われているかが見えてきます。あくまでイメージですが、次のように整理できます。

項目 売上100を基準にしたイメージ
販売価格(売上) 100
仕入・製造原価 - 原価分
販売手数料 - モール・カテゴリーにより変動
送料・梱包資材費 - サイズ・重量・地域により変動
広告費 - 出稿方針により変動
人件費・バックオフィスコスト - 作業量により変動
手元に残る利益 残りすべて

大切なのは、この引き算を売れたあとに集計するのではなく、価格を決める前に見積もっておくことです。原価に一定の利益を乗せただけの価格設定では、手数料や送料、広告費がまるごと後回しになってしまいます。出品する前に「この価格で、このコストを全部差し引いても利益が残るか」を確認する。これが、利益構造を設計するということの実務的な意味です。

どこから手をつけるか——改善の優先順位

5つのコストをすべて同時に見直そうとすると、たいてい息切れして終わります。優先順位をつけて、効果の大きいところから着手するのが現実的です。

  • 第一に、価格設定の見直し。コストを織り込まずに決めた価格がないか、まず点検します。ここがずれていると、他をどれだけ改善しても土台から崩れます。
  • 第二に、送料・梱包の見直し。サイズ・重量による送料区分の変化は、資材や梱包方法の工夫で改善余地が大きい領域です。
  • 第三に、広告費の効果測定。広告経由の売上が、手数料・送料まで差し引いても利益を残せているかを定期的に確認します。
  • 第四に、人件費・作業工程の見直し。効果が出るまで時間がかかる領域のため、他の見直しが一巡してから着手するのが現実的です。

この順番には理由があります。価格設定と送料・梱包は、比較的短期間で効果が見えやすい領域です。しかも、一度仕組みにしてしまえば、継続的に効いてきます。工程を分解して仕組み化する考え方は、私たちが以前『たまたま売れた』を、なくす。|ラクフルのEC運営を支える再現性の話という記事でも触れました。

一方、広告費と人件費は判断や改善に時間がかかります。土台となる価格・送料の見直しを先に済ませたうえで取り組んだほうが、結果的に近道になります。優先順位を決めずに手当たり次第に手をつけると、効果の小さい部分に時間を使ってしまいます。いちばん効くはずの価格設定が、後回しになりがちです。

ラクフルの現場から——一点ものリユースの採算管理という視点

私たちラクフルは、大阪・豊中でリユースEC・アパレルECを含む複数事業を運営しています。ここで具体的な自社の売上・利益の数値をお見せすることはできませんが、日々の実務のなかで感じている構造上の特徴は、正直にお伝えできます。

リユース商材は、一点ずつ状態が違う「一点もの」です。新品のように、同じ商品を大量に仕入れて同じ条件で売る、という前提が成り立ちません。検品で動作や状態を確かめ、クリーニングで磨き上げ、そこでようやく値付けができる。検品からクリーニング、値付けまでの現場は、一点ごとに手間も仕入れ値も変わります。値付けの途中で、想定より状態が良く見積もりを上げ直すこともあれば、逆に見えにくいキズに気づいて下げ直すこともあります。

だからこそ、「この価格で売れたとして、検品や梱包の手間、複数モールへの出品にかかる手数料まで含めて採算が合うか」を、一点ごとに考える必要があります。まとめて仕入れて平均値で判断する新品事業とは、採算管理の粒度がそもそも違うのです。私たちは、この手間を惜しみません。

この「一点ずつ採算を考える」という手間のかかる姿勢は、そのままEC事業全体の利益構造にも当てはまる考え方だと、私たちは思っています。売上という大きな数字だけを見るのではなく、一つひとつの商品・注文が本当に利益を生んでいるかを確かめる。地味な作業ですが、これを飽きずに積み重ねられるかどうかが、事業の寿命を左右すると考えています。現場でこの作業に本気で向き合ってくれている仲間がいるからこそ、私たちはこの構造を、実感を持って語ることができます。

今後、私たちが実践していくこと

私たちも、利益構造の可視化を完璧にできているわけではありません。むしろ、まだ手探りの部分がたくさんあります。それでも一つずつ、仲間と一緒に形にしていきたいと思っています。これから取り組んでいきたいことを、正直にお伝えします。

  • データ活用による原価・コストの可視化:商品ごと・モールごとの手数料や送料を、より細かく把握できる仕組みづくりを進めていきます。
  • 複数モールの利益率比較:同じ商品でも出店先によって手残りが変わることを踏まえ、モールごとの採算を比較する視点を強めていきます。
  • 広告費の効果測定の精緻化:売上だけでなく、手数料・送料まで含めた「本当の利益」で広告の効果を判断する体制を整えていきます。
  • AI・データ活用による原価計算の効率化:一点ずつ状態が違うリユース商材の採算管理を、感覚だけに頼らず数字でも支える仕組みを、これからも挑戦しながら育てていきます。

どれも、まだ道半ばです。それでも、焦らず一つずつ、仲間と楽しみながら形にしていくつもりです。

まとめ:利益は売ってから考えるものではなく、出品前に設計するもの

売上と利益が一致しないのは、販売手数料・送料・梱包資材費・広告費・人件費という営業費用が、売上と利益のあいだに挟まっているからです。この構造を知らずに「とにかく売る」ことだけを追いかけると、売れば売るほど利益が薄くなるという逆説に陥ります。

大切なのは、コストの集計を売れたあとに回すのではなく、価格を決める段階で見積もっておく習慣です。価格設定・送料と梱包・広告費・人件費、この順番で、効果の大きいところから見直していく。売上の大小よりも、利益構造がどれだけ健全かが、事業をどれだけ長く続けられるかを決めます。

この記事で触れたコスト分解の考え方を、日々の出品作業にどう落とし込むか。そこに私たちは、これからも本気で向き合っていきます。私たちラクフルの事業・サービスや、関連する記事もあわせてご覧いただければと思います。

よくある質問

Q. 粗利と営業利益、まず見るべきはどちらですか?

A. まず粗利(売上高から仕入・製造原価を引いた利益)で「商品自体の採算」を確認します。そのうえで、販売手数料・送料・広告費・人件費まで差し引いた営業利益で「事業として利益が残っているか」を確認する。この順番がおすすめです。粗利だけを見て満足すると、営業費用の見落としに気づけません。

Q. 「送料無料」にすると利益はどうなりますか?

A. 送料無料は集客・購入率の向上に効果がある一方、送料分のコストは事業者側が負担することになります。価格に送料分をあらかじめ織り込んでおくか、送料無料になる購入金額のラインを、利益が残る水準に設定しておくか。事前にどちらかを決めておく必要があります。

Q. 広告費はどのくらいまでかけていいのでしょうか?

A. 一律の目安はありません。広告経由の売上から、販売手数料・送料・原価まで差し引いてもなお利益が残る金額を上限と考えるのが基本です。売上だけを見て広告費を増やし続けると、利益を削って売上を作っている状態に気づきにくくなります。

Q. 利益率の目安を教えてください。

A. 業種・商材・出店チャネルによって適正な利益率は大きく異なるため、一概な目安を示すことは避けたいと思います。大切なのは他社の目安と比較することよりも、自社のコスト構造を分解し、価格設定に反映できているかどうかです。

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公開: 2026年7月13日 / 最終更新: 2026年7月13日 / 執筆: ラクフル株式会社(EC事業運営の現場より)

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